技術解説(富士フイルム)

2014年4月号

Head & Neck Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

SYNAPSE VINCENTにおける頭頸部領域の最新アプリケーション

斎藤 志帆/大島 俊介(ITソリューション事業本部事業推進部3D営業技術グループ)

近年,モダリティのハードウェア,ソフトウェアの性能が向上したことにより,MRIでMotion Probing Gradient(以下,MPG)の方向を変えて収集した拡散強調画像(DWI)を短時間で収集することができるようになった。これらDWIをテンソル解析することで,拡散テンソル画像(DTI)の生成が可能となり,脳神経外科領域,神経放射線領域などで,さまざまな研究や臨床現場で利活用されている。その代表例として,トラクトグラフィーを用いた神経線維の三次元表示が挙げられる。ある脳神経病変部位と,錐体路をはじめとする神経線維との関係を観察することで,術前のシミュレーションや治療後のフォローアップに臨床応用されている。
今回,「SYNAPSE VINCENT V4.0」(以下,VINCENT)では,トラクトグラフィーに加え,抽出した神経線維と他モダリティとの重ね合わせ,さらに頭部領域の手術をシミュレーションする“開頭シミュレータ/テンソル解析”アプリケーションをリリースした。本稿では,開頭シミュレータ/テンソル解析について,また,主に頸部血管の狭窄部位の評価法の1つであるNASCET(North American Symptomatic Carotid Endarterectomy Trial)法を簡便に行うことができる“血管CPR解析”アプリケーションの機能を紹介する。

■開頭シミュレータ/テンソル解析:トラクトグラフィーステージ

開頭シミュレータ/テンソル解析は,トラクトグラフィー,臓器抽出,開頭シミュレータの3つのステージで構成される。トラクトグラフィーステージでは,トラクトグラフィーの始点,目標など,目的別に数種類のROIを設定して選択的な神経線維の描出を行う。
トラクトグラフィーの手法は,まず,複数DWIから得られたDTI画像から,Fractional Anisotropy(各軸方向の異方性,以下,FA)値を算出する。VINCENTでは,FA値および拡散方向から連続するボクセル同士を順次連結させて神経線維を描出するが,1ボクセルあたり1方向のみに異方性がある前提で計算する1Tensor法と,2方向に異方性がある2Tensor法のいずれかを選択できるようになっている(図1)。同一の始点ROIを設定した場合,1Tensor法と比較して,2Tensor法を用いることで全体的に描出される神経線維数は増加するが,トラクトグラフィーに要する時間は長くなる。利用用途に応じて,適宜手法を切り替えて解析できるようになっている。また,3D表示だけではなく,FA画像や拡散カラーマップの表示,指定ROI内の各種計測などの数値解析にも対応している(図2)。

図1 トラクトグラフィーの手法による結果の違い

図1 トラクトグラフィーの手法による結果の違い

 

図2 数値解析結果例

図2 数値解析結果例
画面上にFA値,ROIを通過する線維数を表示

 

■開頭シミュレータ/テンソル解析:臓器抽出,シミュレーションステージ

現在,脳神経外科領域において,神経線維の描出はもちろんのこと,造影CT画像やMRIのT1強調画像との重ね合わせは術前シミュレーション画像として欠かせなくなってきている。神経線維と重ね合わせる3D表示の作成には,CTやMR画像が用いられるが,手動による皮膚,骨,血管,脳表などの抽出には膨大な時間を要する。上記課題を解決するべく,臓器抽出ステージでは,皮膚,骨,血管,腫瘍などの抽出は基本的に自動抽出をサポートしており,簡便かつ高精度な画像作成を可能とする。皮膚,骨および血管は造影,非造影CT画像から自動抽出を行う。また,造影CT画像が存在しない患者のために,MRA画像や,血管撮影装置から得られる3D-DSA画像から,手動で血管領域の抽出を行えるようになっている。
脳表の抽出は,富士フイルムの独自開発である画像認識技術を用いて,CT,MR画像からの抽出対象をユーザーが指定することなく脳表自動抽出が可能である。特に,MR画像を用いることで,特徴である低コントラスト分解能を最大限に生かして脳溝を3D表示上でも鮮明に表現できることから,手術シミュレーションにより有用であると考えられる。
臓器抽出後,シミュレーションステージに移動することで,実際の手術の流れに即した皮膚・骨領域の切開シミュレーションが可能である(図3)。画面は全体像を把握する俯瞰ビューアと,局所的な観察を行う術野ビューアで構成され,俯瞰ビューアでカメラを設置後,局所的に拡大された画像を術野ビューアで観察しながら,皮膚,骨の順に切開し,脳表へのアプローチをシミュレーションする。表示された脳表を視線方向にクリップ(非表示)することで,脳実質内部の血管,神経,腫瘍の観察を行い,腫瘍近傍の血管の走行などを確認するモードも搭載している。
また,以前のバージョンでは,院内の有線LANとデスクトップパソコンを接続してVINCENTサーバーへアクセスしていたが,入院患者への説明,手術室での参照など,有線LAN環境を構築しにくい場所での利用は限定されていた。V4.0からは,無線LAN環境でタブレット端末からVINCENTの直接参照に対応した(モバイルVINCENT:図4)。必要な場所でVINCENTを操作していただくことにより,インフォームドコンセント,手術または治療の安全性に寄与したいと考えている。

図3 シミュレーションステージでの表示例

図3 シミュレーションステージでの表示例
グリオーマ症例。骨切離後,脳表をクリップすることで,内部をあらゆる角度から観察できる。それぞれの臓器の透過度は自由に変更できる。

 

図4 モバイルVINCENT画面(開頭シミュレータ/テンソル解析)

図4 モバイルVINCENT画面(開頭シミュレータ/テンソル解析)
抽出した臓器の表示,非表示なども行える。

 

■NASCET(North American Symptomatic Carotid  Endarterectomy Trial)計測

内頸動脈狭窄症は,食生活の変化などにより,わが国においても増加傾向を示している。2008年にCAS(Carotid Artery Stenting:頸動脈ステント)が認可されたことや,CT画像の画質向上などにより,血管撮影画像だけでなく,CT画像でも狭窄率の測定が積極的に行われるようになっている。VINCENTでは,血管CPR解析アプリケーションで,頸動脈狭窄症の外科的治療の指標となるNASCET計測が可能となった(図5)。内頸動脈遠位部と狭窄部を2点指定することで,値を算出することができる。また,NASCET法以外の狭窄率測定も前バージョンと同様に可能となっており,施設の運用に応じて,適宜使い分けることができるようになっている。

図5 血管CPR解析のNASCET計測画面

図5 血管CPR解析のNASCET計測画面
内頸動脈の正常径を指定し,狭窄率を算出する。

 

今回,SYNAPSE VINCENT V4.0で新発売するアプリケーションなどを紹介した。各アプリケーションでは,画像,解析結果を簡便に作成できるため,今後,頭頸部領域で幅広く活用されることを期待する。

 

●問い合わせ先
富士フイルムメディカル株式会社
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