FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み

ITvision No.38

Case29 滋賀県立総合病院 臨床工学部の情報管理をFileMakerによるユーザーメードシステムをベースにベンダーと連携して構築

臨床工学部 技師長 髙垣 勝 氏

髙垣 勝 氏

髙垣 勝 氏

滋賀県立総合病院(旧・滋賀県立成人病センター)は,2018年1月に電子カルテシステムなど病院情報システムを更新した。臨床工学部では,技師長の髙垣勝氏を中心にFileMakerプラットフォームによる部門システムを構築してきたが,更新を機に電子カルテシステムとの連携強化,遠隔モニタリングシステムの効率的な運用を目的として,FileMakerでのシステム構築に豊富な実績を持つソフトクオリティ(京都市,齊藤孝行社長)と連携した構築を行っている。ユーザーとパートナーが連携した臨床工学部門でのシステム構築を取材した。

心カテ,ペースメーカーから人工呼吸器まで幅広い領域をカバー

同院の臨床工学部には13名のスタッフが在籍する。臨床工学部が扱う業務は,手術室や心臓カテーテル(心カテ)室における各種の機器の操作や管理,ペースメーカーなどの患者の体内に留置・携帯するデバイスの管理,人工透析など血液浄化,人工呼吸器の運用や管理,そのほか輸液ポンプといった各種ME機器の管理など多岐にわたる。髙垣氏は臨床工学部の運用について,「臨床工学部がカバーするのは,領域でいえば循環器から呼吸器,代謝関連まで,機器では心カテ検査の動画像や血管内超音波装置(IVUS)などの画像診断装置から各種の治療機器,心臓植え込み型デバイスまで多種多様です。高い専門性が要求される業務が多く,1人でオールラウンドに対応するのは難しいので各自が複数の専門領域を持ち,3,4名がグループになって,五輪の輪のように少しずつ重なり合って対応しています」と説明する。

診療や機器管理のデータベースをFileMakerで構築

臨床工学部では,髙垣氏が技師長として赴任した2008年からFileMakerプラットフォームによるシステム構築がスタートした。髙垣氏は構築の経緯について,「病院情報システムは医師や看護師向けの機能が中心で,臨床工学部の業務に即したシステムがありませんでした。そこで,FileMakerを利用して,心カテ検査のスケジュール管理やレポート,部内の業務管理などから着手して,心臓植え込み型デバイスのフォローやリサーチのためのデータベース構築へと広げていきました」と説明する。
心カテ関連では,手技実施時のデータ入力やレポート作成まで項目を広げ,ペースメーカーなどの心臓植え込み型デバイス,EPS(電気生理学的検査)・アブレーション,IABP(大動脈バルーンパンピング補助循環装置)・PCPS(経皮的心肺補助装置),人工心肺,CPAP(持続陽圧呼吸療法),SAS(睡眠時無呼吸症候群)の管理やレポート作成などの情報管理を行う“循環器ネット”と,臨床工学部のスケジュール管理などを行う“臨工ネット”を順次構築していった。
髙垣氏はFileMakerでの構築について,「CPAPや携帯型心電計などでは,予約や機器の貸し出し,取得したデータの解析や管理,レポート作成などが必要ですが,FileMakerであれば機動性良く短時間で構築できます。本来は診療報酬請求にかかわるのでオーダベースの構築が必要ですが,基幹システムではコストも時間もかかります。自ずとFileMakerが使える臨床工学部が担当することが増え,少しずつデータベースが広がっていきました」と説明する。

臨床工学部が中心になってFileMakerによる循環器ネットを構築

臨床工学部が中心になってFileMakerによる
循環器ネットを構築

 

電子カルテの更新に合わせて情報連携を強化

同院では,2012年から電子カルテシステム(NEC)が稼働したが,臨床工学部のFileMakerシステムとは連携していなかった。今回の更新では電子カルテシステムだけでなく部門システムも全面的に見直され,当初からの懸案だった電子カルテとの連携が認められた。髙垣氏は,「電子カルテの導入時から,FileMakerとの連携を要望してきましたが,今回の更新でようやく実現しました。これまでのFileMakerによるデータベース開発の実績が認められたのだと思います」と述べる。
システムの更新では,臨床工学部で構築されてきたFileMakerのデータベース(カスタムApp)部分はそのままに,電子カルテとの連携をソフトクオリティが担当した。具体的には,患者情報の連携(IDによる連携),アカウント連携,オーダのFileMakerへの取り込み,レポートのPDFによる連携などが可能になった。髙垣氏は,「心カテ室のスケジュール管理は従来,FileMakerがメインでしたが,電子カルテ側のスケジュール管理や画像オーダの都合から二重入力が必要でした。今回の連携でそれが解消し運用性はかなり向上しました。また,電子カルテや院内のポータル画面から,該当の患者を選択していれば関連するFileMakerのデータがリストで一覧でき便利になりました」と述べる。
システム構築を手掛けたソフトクオリティは,キヤノンメディカルシステムズ(旧・東芝メディカルシステムズ)の「CardioAgent」の開発を行っている。カスタムAppの構築でも多くの実績を持つ同社だが髙垣氏は,「現場からの要望をすぐに反映できるのがFileMakerのメリットで,それを生かすにはユーザーが直接構築するのが一番です。一方で,基幹システムとの連携はわれわれでは手に負えない部分で,そこはプロに任せたい。システム管理としては責任分界点の切り分けが難しいところですが,FileMakerの豊富な経験と深い知識を持つソフトクオリティだからこそ,お互いの信頼関係でうまくカバーできました」と評価する。

遠隔モニタリングシステムの情報管理をFileMakerで効率化

もう一つ,ソフトクオリティと構築を進めているのが,心臓植え込み型デバイスの遠隔モニタリングのサポートシステムである。遠隔モニタリングシステムは,患者の体内のデバイスの情報を,自宅などに設置した端末からネットワークでサーバ(デバイスメーカー各社が構築)にアップロードして状態を把握するシステムだ。これまでのデータ管理は,患者が定期受診(3〜6か月に1回)した際に,専用の検査機器を使って読み取りデータの確認や解析を行っていた。これには時間がかかるため,診察までの待ち時間が長くなるなどの問題があった。遠隔モニタリングでは,サーバのデータを医療機関がWebサイトにアクセスして参照できる。診察の数日前にあらかじめデータを確認することで,事前に詳細な解析ができ,当日の外来時間も短縮できる。また,不整脈やリード線の異常などイベント発生時にメールなどで通知するアラート機能があり,「これまでは患者さん自身が不調を感じて受診しなければわからなかった情報が,切れ目なく管理できるのが遠隔モニタリングのメリットです」と髙垣氏は説明する。
2018年度の診療報酬改定で遠隔モニタリング加算が大幅に加点(60→320点)されるなど,ITを使った遠隔医療としての期待が大きいが,一方で運用管理に大きな労力が必要なことが件数が増加しない一因になっていると髙垣氏は言う。
「医師や患者さん自身の利便性が高いことは間違いないですが,それを管理する側の業務負担が大きいことが課題です。それをFileMakerを使って少しでも軽減することがシステム構築のねらいです」
同院では,約500名の心臓植え込み型デバイス装着患者をフォローしているが,そのうち遠隔モニタリングは360名。データはFileMakerの循環器ネットで管理し,データベース化してレポート作成などを行っている。今回のサポートシステムの開発では,遠隔モニタリングシステムのサーバにアップロードされたデータを,FileMaker側に自動で取り込めるようにする。現在は,Webサイトを参照しながら必要な項目のデータをFileMakerに手入力してレポートを作成し,サイトの元(生)データは紙やPDFでプリントアウトしている。髙垣氏は,「自動的にFileMakerに取り込めれば,データ入力や印刷の手間がなくなり業務の軽減になります。さらに,FileMakerがアラート情報の中から本当に対応が必要な場合にだけ通知するような仕組みができれば,緊急対応の負担も軽減できるのではと期待しています」と述べる。

ユーザーメードとベンダーの連携によるカスタムAppの運用

髙垣氏は,臨床工学部の多種多様なデバイスや診療内容を扱うには,FileMakerが不可欠だとして次のように言う。
「システムに業務を合わせるのでなく,業務に合ったシステムを構築できるのがFileMakerの最大のメリットです。既製のシステムでは,こちら側の思考や手順を変える必要に迫られますが,FileMakerという武器があれば仕事に合わせて変幻自在に対応することができます」
2018年のシステム更新後,病棟などでFileMakerを利用できる環境が広がった。髙垣氏は,「最終的には院内の各診療科のニーズに合わせて,臨床や研究用のさまざまなデータベースを構築していきたいですね。循環器ネットがそのベースとなって拡大していければと考えています」と,臨床工学部を中心とするFileMakerプラットフォームのこれからを展望した。

図1 循環器ネットポータル画面

図1 循環器ネットポータル画面

 

図2 携帯型心電計の患者管理画面

図2 携帯型心電計の患者管理画面

 

図3 ペースメーカーの患者一覧画面

図3 ペースメーカーの患者一覧画面

 

図4 臨床工学部業務予定表

図4 臨床工学部業務予定表

 

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