Case 4 寿量会熊本機能病院 
質の高いリハビリテーション医療を提供する最適な環境をFileMakerで構築

2011-2-15


病院の全景。左の丸い赤屋根が総合リハビリテーションセンター,右の赤屋根は地域交流館

病院の全景。左の丸い赤屋根が
総合リハビリテーションセンター,
右の赤屋根は地域交流館

熊本機能病院(410床)は,総合リハビリテーションセンターや回復期リハビリテーション病棟(125床),リハビリ専門医や理学療法士,作業療法士,言語療法士などのスタッフをそろえ,高度で質の高いリハビリテーションを提供している。
総合リハビリテーション部では,FileMakerによる患者情報入力,クリニカルパスの運用,インフォームド・コンセント,業務管理などのシステムを構築し,診療に活用している。リハビリ部門を中心としたシステム構築の現況を,中西亮二副院長,総合リハビリテーション部の中島雪彦副部長,三宮克彦課長,システム構築を担当した株式会社リアルワークス(FBA*1)の戸田博公氏に取材した。

中西亮二 氏

中西亮二 氏

中島雪彦 氏

中島雪彦 氏

三宮克彦 氏

三宮克彦 氏

戸田博公 氏

戸田博公 氏

 

●リハビリテーションの多様な入力項目に対応する柔軟なシステム設計

体育館を思わせる広い総合リハビリテーションセンター。86名のスタッフが,一般リハ,回復期リハなどにあたる

体育館を思わせる広い総合リハビリテーションセンター。86名のスタッフが,一般リハ,回復期リハなどにあたる

熊本機能病院では,2003年に病院の電子カルテをWebObjects*2ベースのCyber Framework*3を採用した“Patient Viewer”で構築した。同院の情報システム構築の方針を,中西副院長は次のように説明する。
「当院の大きな柱であるリハビリテーションでは,数値や画像だけではない多種多様なデータを入力し,それを基にした評価が必要です。パッケージベースの電子カルテシステムでは,これに対応できる小回りの利いたシステムがなく,一から構築するには綿密な設計と専門的な技術が必要で,大きな手間とコストがかかります。当院では,基幹システムを,ある程度のカスタマイズとオープンな環境のシステムであるCyber Frameworkで構築し,それでも対応できない各部門のワークフローの部分にFileMakerを採用しました」
当時は,院内のスタッフとしてシステム構築にあたったリアルワークスの戸田氏は同院でのシステム構築の経緯を次のように語る。
「Cyber Frameworkは,エンドユーザーコンピューティングが可能な柔軟なシステムではあったのですが,実際の現場のニーズに対応するためにユーザー自らがシステムを変更するには,ある程度のスキルと時間が必要でした。そこで,現場ごとのワークフローに対応できるアプリケーションとして,各部門で使われていたFileMakerを活用していくことにしました」
FileMakerによる各部門でのデータベース構築は,電子カルテ導入以前から行われていたが,Patient Viewer側に蓄積されたデータベースを利用できたことで各部門でのFileMakerの活用が進んでいったという。中西副院長は「診療録として必要な情報は電子カルテで管理して,FileMakerのデータとは分けています。電子保存三原則に則った基幹システムとFileMakerで用途を分けて運用しています」と話す。

●リハビリの評価項目などに併せて,フォームや入力アシストなどを作成

リハビリテーション部門では,リハビリを行う入院患者の治療評価などを記録するリハ基本情報や脳卒中のクリニカルパス,患者申し送りなどをFileMakerで構築し運用している。三宮課長はFileMakerによるシステム構築の経緯を次のように語る。
「リハビリ部門では,リハビリの効果や回復状態の把握のために,身体機能,認知,日常生活活動などの検査を行い,その評価を記述する必要があります。こういった治療や患者さんの状態に関する情報をデータベース化することで,より質の高いリハビリの提供をめざして,FileMakerによるシステム構築に取り組みました」
リハ基本情報では,患者の移動能力や自立度,認知度,機能的自立度評価表(Functional Independence Measure:FIM)などを記録する。これらの項目は,“独立座位”“起立”“歩行”など患者の状態から判断する部分も多く,入力するスタッフによって評価がばらつかないように,入力欄に合わせてマニュアルを掲載するなど工夫している(図1)。三宮課長はFileMakerによる構築のメリットを次のように言う。
「リハビリの細かな評価項目を取り込んだ電子カルテは少なく,それを運用に合わせてカスタマイズするにはコストがかかります。また,新しい評価項目が加わったり,研究によって指標が見直されることもあり,ユーザー自身で変更や追加が可能なFileMakerを使うことで対応できました」
さらに,患者やその家族へのインフォームド・コンセントのために,リハビリによる回復度を,過去の自院の論文やデータから予測して説明するツールを作成している。中島副部長は「データに基づいた説明を,表示された画面を見せながら患者さんやご家族に行うことで,リハビリの目標を理解して取り組んでいただけます。予測の根拠となるデータや,リハビリの質,紹介患者さんの流れなどは,その時々で変わりますので,柔軟に対応するためにはFileMakerのようなシステムは必須だと考えています」と語る。

図1 リハビリテーション支援システムの基本情報:ADL入力画面

図1 リハビリテーション支援システムの基本情報:ADL入力画面

 

●患者申し送り表をFileMakerで作成しスムーズな情報伝達を行う

総合リハビリテーション部には,理学療法士(PT)46名,作業療法士(OT)30名,言語療法士(ST)10名,合計86名のスタッフが所属する。これらのスタッフが担当する患者の一覧と,スケジュールを管理する“患者申し送り”のシステムを構築している(図2)。一覧には,担当スタッフ名のほか,疾患名や入院日数,患者の現状や注意点などの情報が入力され,スタッフごとの担当患者の検索がワンボタンできるように工夫されており,担当スタッフが休みの時の患者の割り振りがスムーズに行え,その際にも患者の現在のリハビリの進行状況や状態を簡単に共有できるようになっている。
三宮課長は「同じようなデータは電子カルテにもありますが,担当スタッフごとに一覧表を作成したり,必要なデータだけを抽出して表示することは簡単にはできません。FileMakerならば,すでに入力されているデータをリレーションでルックアップしたり,レイアウトを簡単に作成したり変更することができます。これを,印刷してメモとして使うことで現場のワークフローに合わせた運用が可能です」とそのメリットを強調する。

図2 脳卒中の院内クリニカルパス画面

図2 脳卒中の院内クリニカルパス画面

 

●脳卒中のクリニカルパスでの活用などFileMakerの応用が広がる

同院では,脳卒中のクリニカルパスを作成して,これをFileMakerで運用している(図3)。また,熊本県では,熊本脳卒中地域連携ネットワーク研究会(K-STREAM)を中心に,脳卒中の地域連携パスが運用され,パスに基づいて急性期から回復期,維持期,在宅まで地域全体での診療が行われている。同院は,急性期病院から患者を受け入れ,回復期リハビリを提供し後方病院との連携を行っている。これに関しても,パスをFileMakerで運用しているが,K-STREAMではパスデータの収集のために“脳卒中地域連携パス”“脳卒中地域連携シート”をFileMakerで作成してデータベース化を進めている。
2010年12月に電子カルテが更新され,新しいシステム(東芝住電医療情報システムズ)となった。更新にともなって,各部門で作成されていたFileMakerのシステムを基幹システムへの統合も検討されたが,電子カルテだけでは吸収しきれないため,File Makerを並行して稼働させている。現在,院内の電子カルテ端末に約100クライアントが導入されている。中島副部長は「リハビリはチーム医療で,担当医やセラピストだけでなく,看護師やMSWを含めた連携が欠かせません。FileMakerのシステムによって,各職種間のスムーズな情報共有が進んでいます」と語る。三宮課長は,FileMakerの活用について「蓄積されたデータを活用して診療へフィードバックしていくことを考えていきたいですね」と,これからの方向性を語っている。

図3 リハビリ担当患者申し送り表:ヘッダ部分のスタッフ名のボタンを押すことで担当患者が抽出でき,休日の代行者への申し送りが簡単に行える

図3 リハビリ担当患者申し送り表:ヘッダ部分のスタッフ名のボタンを押すことで担当患者が抽出でき,休日の代行者への申し送りが簡単に行える

 

*1 FileMaker Business Alliance(FileMaker公認パートナー)
*2 アップル社のWebアプリケーション,サービスの開発環境
*3 サイバーラボ社のエンドユーザー向け開発支援環境

 

Claris 法人営業窓口
Email:japan-sales@claris.com
医療分野でのお客様事例 : https://content.claris.com/itv-medical
03-4345-3333(平日 10:00〜17:30)

寿量会熊本機能病院

寿量会熊本機能病院
熊本県熊本市山室6-8-1
TEL 096-345-8111
病床数:410
FileMaker Pro:97
FileMaker Pro Advanced:2
FileMaker Server Advanced:1
http://www.juryo.or.jp/


(インナービジョン2011年2月号 別冊付録 ITvision No.23より転載)
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