技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2018年4月号

Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

CTでの腹部臓器イメージング最新動向─ハードウエアとソフトウエアの観点から

堤  高志(研究開発センター臨床アプリ研究部)

CTでの腹部臓器イメージングに関して,ここ数年でのトピックスはエリアディテクタCT(以下,ADCT)での4D撮影やデュアルエネルギー撮影/解析による造影剤強調,超高精細CTによるさらなる高精細な画像取得などが挙げられるであろう。
われわれキヤノンメディカルシステムズは,2018年1月4日に社名変更し,キヤノンのさまざまな技術との融合を図りつつ新規技術開発を加速させている。本稿においては,現在販売されている装置・機能の中から,ハードウエアおよびソフトウエアの観点で技術紹介を行う。

■超高精細CT「Aquilion Precision」

ハードウエアの観点では,2017年の国際医用画像総合展(ITEM 2017)にて発表した超高精細CT,Aquilion Precisionがトピックスと言えよう。
この装置は,世界で初めて0.25mm×160列のマトリックス検出器モジュールを開発し,搭載したものである。マトリックスサイズが小さいため,隔壁のサイズは検出効率に大きな影響を及ぼす。生産技術も含むさまざまな技術革新は,従来装置比で1/2の厚さの隔壁を可能にし,検出効率の課題を解決した(図1)。また,この装置でもADCT「Aquilion ONE/GENESIS Edition」と同様,新光学系システム“PUREViSION Optics”により,X線エネルギーを最適化することで低被ばくと画質向上を可能にしている。

図1 検出器構造比較(従来検出器とAquilion Precision検出器)

図1 検出器構造比較(従来検出器とAquilion Precision検出器)

 

しかしながら,単純に検出器を小さくすれば分解能が向上するものではなく,装置開発に当たっては検出器・DAS(data acquisition system)のみならず,極小焦点(最小0.4mm×0.5mm)を持つX線管球やデータ転送系,再構成系(1024マトリックスで最速80images/s),架台や低振動の患者寝台に至るまで,空間分解能を向上することを至上命題として,ほぼすべてのコンポーネントが新たに設計され,CT装置の総合力として非常に高い空間分解能を達成することがかなった。これらの開発により,空間分解能の観点では0.15mmという超高精細データを取得可能となった。
この分解能を活用することで,腹部臓器においても腫瘍辺縁や一部の神経叢浸潤,リンパ節の診断に有用であると示唆されており,さらに,小病変周辺の小血管の描出も可能であり(図2),IVR術前の画像としても有用であるとの報告がなされている1)。このほかにも腹部臓器関連のさまざまな研究がすでに始まっており,今後多くの臨床的知見が得られることが期待されている。

図2 肝腫瘍CTA例 0.25mm,1024マトリックス画像より再構築したMIP画像(a),VR画像(b)

図2 肝腫瘍CTA例
0.25mm,1024マトリックス画像より再構築したMIP画像(a),VR画像(b)

 

■逐次近似再構成法“FIRST”

Aquilion Precisionに関連する技術として,FIRST(Forward projected model-based Iterative Reconstruction Solution)がある。これは,model based iterative reconstruction(MBIR)の一法で,主な特長としては,空間分解能を向上させつつノイズ低減を行うことができる点が挙げられる。
Aquilion Precisionでは,その空間分解能を余すことなく表現するため,1024マトリックスでの再構成が可能であるが,この場合でもFIRSTを併用することができる。Aquilion Precisionの高い空間分解能を犠牲にすることなく効果的なノイズ低減を行うことができるのは,大きな魅力と言えよう。また,腹部領域用に調整されたパラメータとして,ノイズ低減を重視した“BODY”,ノイズ低減と空間分解能向上のバランスを考慮した“BODY SHARP”の2つを準備している。さらに,ノイズ低減の強度については,それぞれ“Mild”“Standard”“Strong”の3強度を選択可能である。
腹部造影画像の一例を示す。0.25mm厚,1024マトリックスでのFIRST BODY(Mild)とオリジナル画像の比較であるが,肝内胆管や微細な血管の視認性を低下させることなくノイズを大幅に低減できていることがわかる(図3)。

図3 FIRST画像とオリジナル画像比較(0.25mm厚,1024マトリックス)

図3 FIRST画像とオリジナル画像比較(0.25mm厚,1024マトリックス)

 

■腹部臓器に最適化されたサブトラクションソフトウエア“SURESubtraction Iodine Mapping”

キヤノンメディカルシステムズでは,これまでさまざまなサブトラクションソフトウエアを世に送ってきた。これらのソフトウエアは,それぞれの部位の動きの特性や必要とされる画像を勘案し,位置合わせアルゴリズムや後処理を各部位に最適化したものである。
ここでは,最新のサブトラクションソフトウエアであるSURESubtraction Iodine Mappingを紹介する。このソフトウエアは,腹部臓器用として相互情報量法を用い,軟部組織に最適化した非線形位置合わせアルゴリズムを用いている。これにより肝・胆・膵などの腹部実質臓器について,複数時相(単純相や複数の造影相)のボリュームデータに対して高精度の位置合わせを行い,サブトラクションボリュームデータの生成を行う。
さらに,単にサブトラクション画像の生成にとどまらず,さまざまなデータの活用ができる点がこのソフトウエアの特長である。まず,サブトラクションボリュームデータをオリジナルの造影相の画像にカラーフュージョンするIodine mapを作成することができる。腫瘍濃染の視認性向上などで効果を発揮する。
次に,このサブトラクションソフトウエアに内包化されている新たな機能として“CE Boost”がある。これは,生成されたサブトラクションボリュームデータに前処理を施した後に,オリジナルの造影画像に加算できるというユニークな機能である(図4)。この処理によって,造影元画像の造影部分を強調することが可能となる。

図4 CE Boostの作動機序

図4 CE Boostの作動機序

 

単純相と門脈相のボリュームデータに,サブトラクションおよびCE Boost処理を適用した臨床例を提示する(図5)。MPR画像で門脈のCT値を計測すると,CT値が40%程度上昇していることがわかる。また,VR処理画像を見ても,腎臓や血管などオリジナルの造影画像では処理が難しかった部分も明瞭に可視化できていることもわかる。
このように,特殊な撮影モードを使用することなく,通常精査で取得されるような単純相と造影相のボリュームデータさえあれば,検査後の再構成で簡便に造影剤強調を行うことができる点で,実臨床において画像処理から読影まで幅広くお使いいただける機能と考える。

図5 CE Boost適用例(膵頭部腫瘍例)

図5 CE Boost適用例(膵頭部腫瘍例)

 

本稿では,ハードウエアの観点からAquilion Precision,FIRSTの技術的側面について紹介し,ソフトウエアの観点からは新しい腹部用サブトラクションソフトウエアであるSURESubtraction Iodine Mappingと内包化されているCE Boost機能について紹介した。
今後はキヤノンが持つ技術と,われわれが長い間培ってきた技術の融合により,さらに臨床ニーズに即した装置やアプリケーションの開発を続けていく。

●参考文献
1)曽根美雪 : 2.超高精細CT ; 腹部領域における臨床応用. INNERVISION, 32・7, 100〜101, 2017.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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