技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2018年3月号

Dual Energy Imagingの技術的特徴

Area Detector CTを用いたDual Energy CTの特徴

津島  総(キヤノンメディカルシステムズ(株)CT営業部営業技術担当)

■Dual Energy CT撮影の特徴

320列Area Detector CT(ADCT)では,寝台移動を伴わずに160mmの範囲を最速0.275秒で撮影することができる。これを応用したDual Energy Volume scan(DE-Vol-Scan:DE Vol)は,高エネルギーによる撮影と低エネルギーによる撮影を合わせて1秒程度で収集する。この撮影法では,auto exposure control(AEC)の使用が可能で,かつ電圧変動のない安定したデータを収集することができるため,照射線量に対するデータ利用効率が高く,不要な被ばくの少ない撮影法と言える。一方,エネルギーの切替時間に0.5秒程度要するため,動きの多い臓器に対しては非線形位置合わせソフトウエアなどの併用が望ましい。当社では,現状一部アプリケーションに対し非線形位置合わせ処理の併用を可能としている。

■仮想単色X線画像の特長

Dual Energy CT(以下,DECT)では,収集されたデータを2種の基準物質によるX線減弱係数の和として表すことで,仮想単色X線画像を作成することができる。そもそも連続X線を用いるCT撮影においては,線質硬化に伴うCT値の変化が発生するが,DECTで算出される基準物質の生データ上にて各X線透過パスのカウント値を基に線質硬化補正を行うことで,従来(beam hardening correction:BHC)よりも高い精度でのBHC効果が得られる。
当社のDECTでは,35〜135keVまで1keVごとに101種の画像を作成することができる。この時,ヨード造影剤のような低エネルギーにおいてX線減弱係数の高い物質は,同帯域におけるCT値が大きく上昇し,相対的に周辺臓器とヨード造影剤とのコントラストが強くなる。結果として,コントラスト強調や造影剤低減へのアプローチにつながる(図1)。また,高エネルギー画像では,線質硬化やカウント不足に起因して発生するアーチファクトの影響を低減させることができる。

図1 仮想単色X線画像における造影コントラストの違い(撮影線量:10.7mGy) (画像ご提供:The Fourth Hospital of Harbin Medical University, China)

図1 仮想単色X線画像における造影コントラストの違い(撮影線量:10.7mGy)
(画像ご提供:The Fourth Hospital of Harbin Medical University, China)

 

一方,画像の情報量は実際に収集されたX線スペクトルに依存するため,極端な高エネルギー画像や低エネルギー画像ではノイズの増大や粒状性の変化,真値との乖離に注意が必要となる。
当社解析ソフトウエアでは,任意の対象物およびその背景に関心領域を設置することで,自動的に全101種の画像におけるcontrast noise ratio(CNR)が算出され,その中で最もCNRの高い画像(Best CNR)を自動表示することができる(図2)。
Okamuraらの報告1)によると,ファントムにて70keVの仮想単色X線画像に逐次近似応用再構成“AIDR 3D”を適用すると,120kVpにAIDR 3Dを適用した場合よりもSNR,CNRが優れていることが示されている。このように,仮想単色X線画像は,BHC効果やCNR特性において一部120kVp相当またはそれ以上の画質を作成することができ,かつ低エネルギ―画像によるヨード強調や,高エネルギー画像によるアーチファクト低減画像を同時に作成できるというメリットがある。

図2 Best CNR (画像ご提供:The Fourth Hospital of Harbin Medical University, China)

図2 Best CNR
(画像ご提供:The Fourth Hospital of Harbin Medical University, China)

 

■物質弁別の特長

DECTでは,2種類のX線エネルギーデータから対象物のX線減弱特性を推定し,CT値差だけでは判別困難であった物質の違いを描出することができる。尿路結石や痛風病変に発生する尿酸成分は,低管電圧と高管電圧とでCT値が大きく変化しない特性を持っており,この特性を用いることで体内における尿酸成分を弁別することが可能となる(図3)。Yamaguchiらの報告2)によると,結石含有患者から採取された232個の結石について赤外線分光解析を行った結果,DECT解析の結果は陽性適中率がカルシウム含有結石で88.3%,尿酸結石で81.8%と高い精度が示された。このように,DECTを用いた尿路結石成分の判定は,より客観的な診断評価法として臨床応用が進んでいる。
また,カルシウム成分の多くやヨード造影剤は,低管電圧のCT値が高管電圧のCT値よりも高く,この特性を利用してヨード成分を抽出し強調した画像(Iodine Map)や,仮想非造影画像(以下,VNC)を作成することができる。当社解析ソフトウエアでは,対象物に合わせたIodine MapおよびVNCを,ユーザーが任意に設定し作成することが可能である。
一方,DECTによるIodine Mapは,限られたエネルギー帯で収集されている原理上,骨の一部とヨードなどの微妙な差異までを明確に弁別することはできない。このような対象に対しては,造影画像と非造影画像を非線形位置合わせの後に減算する“SURESubtraction”も有用な手段と考える3)

図3 尿酸結石とシュウ酸カルシウム結石の弁別(画像はシュウ酸カルシウムの例) (画像ご提供:医療法人仁友会北彩都病院・山口 聡先生)

図3 尿酸結石とシュウ酸カルシウム結石の弁別(画像はシュウ酸カルシウムの例)
(画像ご提供:医療法人仁友会北彩都病院・山口 聡先生)

 

■CT値以外の定量値の算出

当社DECTでは,任意の物質を2つの基準物質の和で表すことで解析を行っている。また,X線減弱係数は,近似的に電子密度と実効原子番号の関数であることから,これら2つの連立方程式を用いて電子密度値と実効原子番号値を算出することが可能となる。当社DECT解析では,任意の対象物に対し,関心領域内の電子密度と実効原子番号がヒストグラムおよび平均値として表示される。Tatsugamiらの報告4)によると,こうして算出される電子密度,実効原子番号はファントム実験の結果,それぞれ真値との誤差が1.3%,3.1%という高い精度で算出されていることが示されている。野元らの報告5)によると,放射線治療計画における従来の“CT値–電子密度変換テーブル”を用いた方法と,当社DECTによる直接的な電子密度値との比較において,ファントムによる実験結果からDECTの方が3%程度真値に近くなる可能性が示されている(図4)。
このように,電子密度や実効原子番号を用いることで,従来のCT値では見られなかった物質の固有差を表現できる可能性がある。

図4 従来法による電子密度値とDECTによる電子密度値との線量計算比較 a:80kVp画像 b:135kVp画像 c:DECTによる電子密度画像 80kVpと135kVpでの従来法による計算結果はほぼ一致しているのに対し,DECTによる電子密度値は3.9%の差が見られた(DECTの方が真値に近い)。 (画像ご提供:東京大学医学部附属病院・野元昭弘先生)

図4 従来法による電子密度値とDECTによる電子密度値との線量計算比較
a:80kVp画像 b:135kVp画像 c:DECTによる電子密度画像
80kVpと135kVpでの従来法による計算結果はほぼ一致しているのに対し,DECTによる電子密度値は3.9%の差が見られた(DECTの方が真値に近い)。
(画像ご提供:東京大学医学部附属病院・野元昭弘先生)

 

■Dual Energy CTの今後

DECTは,さまざまな画像表示や解析を可能とする一方,目的によってはサブトラクションなど,ほかの技術がより有効な結果を示す場合もある。DECTならではの技術を見極め,引き続き開発と改良を続ける所存である。

●参考文献
1)Okamura, T., et al. : Image quality of virtual monochromatic images obtained using 320-detector row CT ; A phantom study evaluating the effects of iterative reconstruction and body size. Eur. J. Radiol., 95, 212〜221, 2017.
2)Yamaguchi, S., et al. : The qualitative diagnosis for the urinary stone composition using dual energy computed tomography. American Urological Association 2014 Annual Meeting, Podium Session 36, PD36-01, 2014.
3)Higashi, M., et al. : Neck CTA with Deformable Registration and Subtraction Method ; Evaluation in Patients with Stents. OMICS J. Radiol., 3・4, 2014.
4)Tatsugami, F. et al. : Measurement of Electron Density and Effective Atomic Number by Dual-Energy Scan Using a 320-Detector. Computed Tomography Scanner with Raw Data-Based Analysis ; A Phantom Study. J. Comput. Assist Tomogr., 38・6, 824〜827, 2014.
5)野元昭弘 : Aquilion ONEによるDECTを用いた電子密度画像に基づくX線放射線治療線量計算の検討. JASTRO2014, 口演発表24, O-125, 2014.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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