超高精細CTの特性を活かした中枢神経領域における当院での取り組みと臨床応用 
五明 美穂(杏林大学医学部放射線医学教室)
Session 2

*最後に講演動画を掲載

2018-12-20


五明 美穂(杏林大学医学部放射線医学教室)

頭蓋内穿通枝動脈や主幹動脈皮質枝,脳表や深部静脈のより詳細かつ正確な描出は,脳外科直達手術の支援画像や脳梗塞の原因血管評価のために必要とされるが,従来CTではその描出能に限界があった。2017年3月に当院に導入された超高精細CT「Aquilion Precision」は,従来CTに比べ面内・空間分解能ともに飛躍的に向上し,より高精細な画像の取得が可能となった。
本講演では,前半でAquilion Precisionの特性を活かした頭蓋内主幹動脈皮質枝や穿通枝動脈の描出能について提示し,後半で当院にて行っている臨床応用の一部を紹介する。

■Aquilion Precisionの描出能評価

1.模擬血管ファントム評価
われわれは,頭蓋内穿通枝血管を想定した模擬血管ファントム(埼玉医科大学国際医療センター市川智章教授の御厚意による)を,当院で使用している従来CTの80列CT「Aquilion PRIME」とAquilion Precisionで撮影し,描出能を比較検討した。模擬血管ファントムは直径0.4 ,0.5,0.7,1.0,1.5,2.0mmの模擬血管が直径ごとに3つずつ近接したものを使用し,Aquilion PrecisionはSHR(super high resolution)モード,最小焦点サイズ(S2:0.4 mm×0.5 mm)にて,従来CTとCTDIvolをそろえて撮影した。従来CTでは直径サイズによらず模擬血管の辺縁は不鮮明であり,直径1.0 mm以下では隣接する模擬血管同士の分離同定が困難であったが,Aquilion Precisionではすべての模擬血管で辺縁は明瞭で,隣接する模擬血管も分離同定することができた。
しかし,頭蓋内穿通枝動脈は径が0.5mmに満たないものも多く,Aquilion Precisionでも描出は容易ではない。現在当院では,低管電圧撮影にて造影コントラストを高めるなどのさまざまな検討を行い,描出能のさらなる向上に努めている。

2.症例における検討
前交通動脈瘤の術前をAquilion Precision(図1 b)で,術後を従来CTのAquilion PRIME(図1 a)で撮影した症例を示す。いずれも造影剤投与法や撮影タイミングは同一である。Aquilion Precisionは従来CTに比べ,主幹動脈皮質枝末梢まで良好な描出が得られている。 Aquilion Precisionは空間分解能が飛躍的に向上したが,一方でノイズ成分も増加する。当院では,2017年9月に導入されたFull IRの逐次近似再構成技術“FIRST”を用い,ノイズ低減と描出能向上を図っている。FBP,AIDR3D,FIRSTを用い皮質枝や穿通枝動脈の描出能を比較した結果,FIRSTで連続した良好な描出が得られた。

図1 前交通動脈瘤症例の描出能の比較

図1 前交通動脈瘤症例の描出能の比較

 

■Aquilion Precisionの臨床応用

Aquilion Precisionにより描出可能となった頭蓋内主幹動脈から起始する分枝血管や穿通枝血管,皮質枝は実に多い。その中の一部を解剖学的特徴と臨床的重要性を含めて解説する。

1.中大脳動脈皮質枝
中大脳動脈は内頸動脈から分岐した後,シルビウス裂を通り脳表に出て,大脳皮質に複数の皮質枝を分岐する。近位部よりM1〜M4の4つのsegmentに分けられる。脳表を走行する部分はM4 segmentに相当し,内頸動脈や中大脳動脈の高度狭窄,閉塞症例においてSTA(浅側頭動脈)とMCA(中大脳動脈)とを吻合し血流を改善させるSTA-MCAバイパス術の際に重要であるが,従来CTでは描出が困難であった。Aquilion Precisionではrecipient血管のM4 segment,donor血管の浅側頭動脈の前頭枝・頭頂枝ともに末梢まで良好に描出可能で(図2 a, b),さらに,脳表画像とフュージョンさせることで脳回と各血管との位置関係を把握でき,吻合血管や吻合箇所の術前シミュレーションに有用である(図2 c)。
このほか,主幹動脈皮質枝の描出が求められる疾患に感染性動脈瘤がある。感染性動脈瘤の多くは,感染性心内膜炎で心臓弁に付着した疣贅(ゆうぜい:細菌・真菌の塊)が弁から離れ,脳動脈の末梢枝の壁に付着し動脈壁を破壊することで生じ,特に中大脳動脈の末梢枝に多い。致死的合併症を生じるため,早期診断・早期治療が重要である。本動脈瘤は紡錘状の形態を呈するため小さいものは検出しにくく,皮質枝末梢までを描出できるAquilion Precisionは感染性動脈瘤の検出に威力を発揮する(図3)。

図2 中大脳動脈皮質枝,前頭枝,頭頂枝

図2 中大脳動脈皮質枝,前頭枝,頭頂枝

 

図3 感染性動脈瘤

図3 感染性動脈瘤

 

2.後大脳動脈皮質枝
後大脳動脈には主に4つの皮質枝がある。このうちparieto-occipital arteryは頭頂葉と後頭葉の境界となる脳溝(parieto-occipital fissure)を走行するため,parieto-occipital arteryより上側が頭頂葉,下側が後頭葉と判断できる。また,calcarine arteryは視覚野の脳溝(calcarine fissure)を走行し,calcarine fissureの上側に網膜の上半分,下側に網膜の下半分が投影される。
頭頂葉や後頭葉に脳腫瘍が存在する場合,脳浮腫で脳溝が同定できず腫瘍の局在が不明確となることがあるが,このような場合に上述の皮質枝と腫瘍の位置関係から腫瘍の局在を把握できる可能性がある。図4に実際の症例を示す。矢状断像(図4 a),脳表画像(図4 b)ともmass effectにより腫瘍の局在が不明確だが,CTAと腫瘍のフュージョン画像を作成することでparieto-occipital arteryよりも上側に腫瘍が位置することが確認でき,局在は頭頂葉であることがわかる。腫瘍の局在把握は,機能温存のための術前シミュレーションに非常に重要である。

図4 腫瘍の局在の同定

図4 腫瘍の局在の同定

 

3.前脈絡叢動脈(anterior choroidal artery)
内頸動脈の最遠位から起始するanterior choroidal arteryは,S字カーブを描き上方に凸の頂点(uncal point)を形成し,脈絡叢に入る。視索,大脳脚,内包後脚が灌流領域で,閉塞すると片麻痺や半身感覚障害,半盲などが出現する(Monakow症候群)。灌流領域を栄養する分枝血管はすべて,uncal pointに至るまでに分岐するため,塞栓術術前にはuncal pointの同定や末梢枝までの全体像の描出が重要となる。また,起始部に動脈瘤が好発するため,クリッピング術前には起始部と動脈瘤の位置関係を把握することも重要である。
anterior choroidal artery分岐部動脈瘤に対するクリッピング術後症例を示す(図5)。anterior choroidal arteryは瘤直上から起始しており(図5 a),術後の経過観察目的で施行したAquilion PrecisionのCTAは,術直後のDSAと同様anterior choroidal arteryを起始部から明瞭に同定でき(図5 b,c),術後評価のDSAを代替する可能性がある。

図5 動脈瘤クリッピング術後評価

図5 動脈瘤クリッピング術後評価

 

4.Heubner反回動脈
Heubner反回動脈は,前大脳動脈のA1/A2 junction付近から起始し,A1に並走するように反回する穿通枝動脈であるが,起始部や本数にバリエーションがある。閉塞により,顔面や上位優位の半身麻痺,失語が出現するため,前交通動脈瘤の術前に起始部や本数を同定することが重要である。Aquilion Precisionでは,Heubner反回動脈を明瞭に描出でき,起始部や本数を確認することができる(図6)。

図6 Heubner反回動脈

図6 Heubner反回動脈

 

5.外側線条体動脈(lateral lenticulostriate artery:LSA)
LSAは中大脳動脈のM1〜M2 segmentから起始し,尾状核や被殻(外側),淡蒼球(内側),内包後脚の一部を灌流する重要な動脈である。LSAは終動脈のため副次的な血液供給は望めず,閉塞により容易に灌流領域に梗塞を生じる。高血圧の影響も受けやすく,特に最外側枝はCharcot脳卒中動脈と呼ばれ,高血圧での外側型被殻出血の原因となる。LSAも起始部と本数,分岐形態にバリエーションがあり,分岐部は動脈瘤の好発部位でもあるため,動脈瘤術前にLSAを同定することは重要である。
図7に,右被殻出血後の脳梗塞症例を示す。血腫の頭側に梗塞を合併している(図7 a)。LSAと血腫,梗塞の位置関係把握目的で施行したAquilion PrecisionのCTAで,LSAはM1/M2 junctionから起始し,その後複数に枝分かれするタイプであることがわかる。外側のLSAは保たれているが,内側のLSAが途絶している(図7 b)。MRIのFLAIR像とのフュージョン画像(図7 c)で,LSAの途絶部分は血腫の部位に一致し,この頭側に梗塞巣が広がっていることがわかり,血腫によるLSA閉塞が梗塞の原因であると考えられた。

図7 LSA,出血,梗塞の位置関係の評価

図7 LSA,出血,梗塞の位置関係の評価

 

■まとめ

空間分解能が向上したAquilion Precisionでは,従来CTでは困難であった頭蓋内主幹動脈皮質枝や穿通枝動脈の描出が可能となり,画像作成側にも目的とする穿通枝動脈の解剖や臨床的重要性の習得が求められる。また,高度化する画像作成の要望に応えるため日々のコミュニケーションに加え,各科とのカンファレンスで情報交換やフィードバックを行うことは非常に重要である。

 

 

 

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