Aquilion Precision技術紹介 
信藤 康孝(キヤノンメディカルシステムズ株式会社 CT事業部CT開発部)
Session(2)-1 : CT 1

2018-5-25


キヤノンメディカルシステムズは2017年4月,世界に先駆けてJRC(ITEM 2017)にて超高精細CT「Aquilion Precision」を発表した。そして,同年11月には世界最大の放射線学会である北米放射線学会(RSNA 2017)で全世界に向けて発信した。
Aquilion Precisionは,この30年間,大きな進化のなかったCT画像の空間分解能を飛躍的に向上させた超高精細CTである。本講演では,Aquilion Precisionの主要な技術について紹介する。

開発の歴史と基本性能

超高精細CTの開発は,2001年に国立がんセンター(現・国立がん研究センター)研究開発事業「がん診断精度向上を目的とした超高精細CT(拡大CT)の開発」としてスタートした。標本用顕微鏡CTから始まり,小被写体向けターンテーブル型,同架台回転型,人体適用型4列CT,同128列CTと開発が進められ,臨床研究期間を経てAquilion Precisionとして実用化に至った(図1)。
CTの基本性能の一つである空間分解能は,1985年に0.35mmを実現して以降,変化がなかったが,Aquilion Precisionは,その性能の大幅な向上を実現した。Aquilion Precisionは,アキシャル画像の空間分解能を150μm(雪の結晶の先端や塩の粒ほどの大きさ)のサイズで描出でき,さらには0.25mmスライス厚で提供することができる。従来CTとは一線を画した,非常に高い空間分解能を実現している。

図1 超高精細CTの開発の歴史

図1 超高精細CTの開発の歴史

 

Aquilion Precisionの装置開発

Aquilion Precisionの開発に当たっては,すべてのユニットを設計し直した。以下に,検出器,X線管,寝台,画像再構成ユニットについて紹介する。

1.高精細X線検出器
検出器は,従来CT(Aquilion PRIME)と同じ範囲に対して2倍の列数(80列→160列),2倍のチャンネル数(896ch→1792ch)とし,サンプリングを増やした(図2)。従来CTと比べ,画素サイズのチャンネル幅(投影サンプリング幅)とスライス幅(収集スライス厚)を半分にしつつ,検出効率の向上をめざしてシンチレータの隔壁なども含めて構成要素を設計し直している。
高精細X線検出器の実現には,画素の高精細化,検出効率の向上,バラツキの少ない量産品質の確保が必要であり,いずれにおいても超微細加工技術,高精度組み立て技術が重要となる。
検出器は,X線を光に変換するシンチレータと,その光を電気信号に変換するフォトダイオードを基本要素に構成されている。空間分解能を決める画素サイズは,隔壁に区切られた単位で決定され,1区画に入射するX線からどれだけ大きな信号を取り出すかが求められる。

図2 高精細X線検出器の開発

図2 高精細X線検出器の開発

 

Aquilion Precisionの開発では,半導体製造技術が応用された(図3)。隔壁の厚さを従来の半分にすることでシンチレータを高効率化し,シンチレータ/フォトダイオードは50μm以下の高精度で組み立てられている。また,散乱線除去コリメータも従来の半分の厚さで高精度に実装することで,従来CTの倍の精度を持つ高精細X線検出器を実現した。

図3 高精細X線検出器の構造

図3 高精細X線検出器の構造

 

2.高精細X線管
高精細スキャンでは,検出器の画素を小さくしても,X線の焦点が大きければカメラで言う“ピントずれ”の状態となり,高精細な画像を得ることはできない。そこで,Aquilion PrecisionのX線管には,自社開発のMegaCool Microを搭載した。
MegaCool Microは,陰極に電界による電子ビーム収束技術を用いることで,バラツキを制御し,極小焦点化を可能にしている(図4)。Aquilion Precisionの最小焦点サイズは,現行臨床CTで最高スペックを持つ「Aquilion ONE / GENESIS Edition」(0.9mm×0.8mm)の約1/2サイズ(0.4mm×0.5mm)と,世界最高クラスの小焦点化を実現した。これにより,検出器の収集モードに対して最適な焦点サイズで照射が可能となっている。
なお,小焦点化により焦点に熱が集中するが,冷却性能の改良により軽減を図っている。

図4 高精細X線管“MegaCool Micro”

図4 高精細X線管“MegaCool Micro”

 

3.高精度寝台
0.15mm(150μm)の分解能実現のため,寝台についても被写体のブレ抑制を追究している。寝台フレーム駆動機構の改良と高剛性化,摺動部の鏡面加工により,スキャン時の振動を従来寝台の約1/2に低減し,ブレの少ない撮影を可能とした。
従来の寝台と新開発の寝台で撮影した櫛形ファントムの画像を比較すると,新開発の寝台ではスキャン面内の分解能が向上していることがわかる(図5)。

図5 高精度寝台の開発

図5 高精度寝台の開発

 

4.画像再構成ユニット
Aquilion Precisionでは,大容量データを一度に表現するため,画像再構成能力を強化し,1024マトリックスの画像を提供できるようにした。従来CT(Aquilion PRIME)の5.3倍の処理速度のエンジンを搭載し,1024マトリックス画像でも秒間80枚の再構成が可能である。

Aquilion Precisionの用語について

Aquilion Precisionに特有の,スキャンモードと焦点サイズの用語について説明する。
Aquilion Precisionには3つのスキャンモードがある(図6 a)。NR(normal resolution)モードは,4素子を束ねることで0.5mm×896chの80列MDCTと同じデータを収集する。HR(high resolution)モードは,0.5mm×1792chと,チャンネル方向に2倍の精度で収集する高精細モードである。スライス厚は0.5mm収集であるが,アキシャル面内の分解能が飛躍的に向上する。SHR(super high resolution)モードは,0.25mm×1792ch収集により体軸方向にも空間分解能が飛躍的に向上する。
焦点サイズについては,6つのサイズがある。フィラメントは従来どおりlongとshortの2種類であるが,電界制御により6サイズに細分化される(図6 b)。番号が大きくなるほど電界強度が強まり,焦点サイズが小さくなる。

図6 Aquilion Precision特有の用語

図6 Aquilion Precision特有の用語

 

まとめ

Aquilion Precisionは,2017年末までに国内13サイトに納入され,稼働を始めている。まだ,臨床応用が始まったばかりの新しい装置であるが,今後も最先端技術を導入し,臨床に貢献できる装置をめざして開発を続けていく。

 

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