GENESISの撮影技術 
青木 祟祐(北九州総合病院放射線科)
Session 1

*最後に講演動画を掲載

2016-12-22


青木 祟祐(北九州総合病院放射線科)

当院は2016年5月に新築移転し,CT検査は現在,「Aquilion ONE」シリーズの最上位機種である320列ADCT「Aquilion ONE/GENESIS Edition」(GENESIS)を一般診療,80列の「Aquilion PRIME」を救急外来専用として使用している。GENESISでは1日約50件の撮影を行っているが,整形領域の撮影が比較的多く,このうち上肢は1日2,3件の検査を行っている。GENESISには多くの特長があるが,なかでも新機能の“エリアファインダ”と“スキャノ画像からの寝台連動機能”の有用性が高い。本講演では,この2つの新機能について使用経験を踏まえて報告する。

エリアファインダによる上肢撮影

1.エリアファインダの特長と上肢撮影における当院での運用
エリアファインダは,ガントリ内でレーザー光を用いて撮影範囲を投影することでボリュームスキャン時の撮影範囲を直接視認できる機能で,位置決め用のスキャノ画像が不要となり,撮影全体のスループット向上と,位置決め撮影そのものの被ばくがなくなることが最大のメリットである。また,患者に優しい検査体位をとりやすく,不安軽減にもつながっている。
当院では,エリアファインダは主に上肢(手・手関節)および小児の頭部撮影に使用している。上肢の撮影は,以前は寝台に腹臥位となり手を挙上した状態で行っていたが,患者の負担が大きく,ポジショニングにも時間を要していた。しかし,現在ではガントリ内に一般撮影時に使用する発泡スチロール製の撮影台を置き,患者は寝台に腰をかけた状態で手を置いていただき,高さ調整後に手を固定して撮影を行っている(図1)。この体位は一般撮影と同じで簡便であり,患者にも優しい。また,ガントリの操作パネルでは,撮影範囲,体軸方向,ラテラル方向,FOVがリアルタイムに変更可能で,その情報がプロトコールに反映されるため,一般撮影と同様の感覚でCT撮影を行うことができる。

図1 エリアファインダ使用時の簡便なポジショニング

図1 エリアファインダ使用時の簡便なポジショニング

 

2.撮影範囲・寝台・撮影条件設定による画質への影響
エリアファインダ使用の注意点として,体軸方向の撮影範囲が160mmのため,ターゲットが十分に収まるかどうかを事前にしっかりと把握してポジショニングする必要がある。当院が上肢の撮影に使用している撮影台は左右幅が240mmで製作しているため,この範囲でポジショニングすればSサイズの撮影が可能であり,当院では主に手関節より遠位の撮影に使用している。
なお,体軸方向160mmの撮影範囲内に被写体を斜めに配置することで,約280mmの撮影が可能となる(図2)。
また,寝台を使用しないことによる画質への影響を見るため,ペットボトル内に希釈造影剤を入れたファントムを作製し,寝台ありとなしで同一線量にて撮影しSDを比較したところ,寝台ありは15.04,寝台なしは12.73と,寝台なしの方がSDは向上していた。
なお,エリアファインダ使用時はスキャノ画像からAuto Exposure Control(AEC:自動露出機構)が使用できないため事前に条件設定をする必要があるほか,GENESISでは実効エネルギーが高いため従来より線質が硬くなっているという実感がある。そこで,GENESISでは管電圧を100kVに設定した方がよいのではないかと考え,実際に120kVと100kVの画像を比較した(図3)。その結果,100kVの方が皮質骨や海綿骨のコントラストが明瞭であったことから,当院では現在,手関節の撮影条件を100kV,50mAsとしており,結果として被ばく低減にもつながっている。

図2 エリアファインダ使用時の撮影範囲を最大限に生かすポジショニング

図2 エリアファインダ使用時の撮影範囲を
最大限に生かすポジショニング

 

図3 GENESISにおける管電圧の違いによる画質への影響

図3 GENESISにおける管電圧の違いによる画質への影響

 

エリアファインダによる小児頭部撮影

エリアファインダでは体軸方向の撮影範囲が160mmであるため,適応となる小児の年齢は3歳以下である。また,当院では鎮静せずに撮影するため,体動が激しく短時間で撮影を終了したい場合に,検査スループットに優れたエリアファインダは特に有用と考えている。
当院では,小児をフットファーストで寝台に固定し,エリアファインダの範囲内に頭部が確実に収まるようポジショニングを行い,ガントリの奥から保護者に頭部をしっかりと固定してもらって撮影を行っている。外傷症例が多く,主に出血や骨折,大きな器質的変化の有無を見るが,これらは高コントラストに描出されるため成人の脳梗塞の診断時のような高SDの画像は不要であり,より分解能を意識したモーションアーチファクトを抑制するプロトコールが求められる。そのため,小焦点の短時間撮影を行うが,成人の頭部を想定した直径17cmの硫酸銅の円形ファントムを撮影し,SDを測定してみた。
撮影条件は,管電圧120kV,管電流は小焦点優先のため350mAの一定とし,収集スライス厚0.5mm,画像スライス厚5mmで,回転速度を0.5秒,0.35秒,0.275秒と変化させて撮影を行った。
0.5秒ではSD4.9とノイズが低減された高画質が得られるが,実際の撮影では体動が多い印象がある。0.275秒では一般撮影と同等の感覚で撮影可能であるが,SD6.5とノイズが多くなる。将来的にFull IRの「FIRST」が頭部に適用されればノイズの問題は解決する可能性があるので,今後に期待したい。
図4は,上記の条件にて0.5秒で撮影した2歳8か月の小児の頭部画像だが,灰白質,白質のコントラストが付き,出血等があっても診断に支障のない画質になっている。
図5も0.5秒で撮影した生後4か月の小児の頭部画像だが,体動があり,低月齢のためコントラストも付かないものの,出血や骨折などの大きな変化はないことがわかる。また,1ボリューム撮影のメリットとして,体動補正の“Advanced Patient Motion Correction(APMC)”を使用できることが挙げられる。ノイズは多少増加するが,APMCによってアーチファクトを除去した画像が作成可能である(図5 b)。

図4 エリアファインダを用いた小児頭部撮影(2歳8か月)

図4 エリアファインダを用いた小児頭部撮影(2歳8か月)

 

図5 エリアファインダを用いた小児頭部撮影とAPMCの効果(生後4か月)

図5 エリアファインダを用いた小児頭部撮影とAPMCの効果(生後4か月)

 

スキャノ画像からの寝台連動機能

従来,体格の大きな被検者などをアイソセンタにポジショニングすることには困難を伴っていたが,GENESISに搭載された新機能では,スキャノ画像を動かすと連動して寝台が左右,上下に移動するため非常に便利で,まさに待望の機能である(図6)。
当院では心臓撮影後に胸部撮影も行うが,心臓はFOVを絞って撮影するため,胸部撮影時には目分量で被検者を移動させてから撮影を行っていた。しかし,本機能の搭載により,コンソール上でFOVおよび高さ方向の寝台の調整が可能となった。撮影がFOVの異なる2部位にわたる場合でも,2回のスキャノ撮影をしなくてもよくなったほか,寝台移動に伴ってAECも変調する。また,ヘッドファースト,フットファーストを問わず使用でき,直感的な操作が可能である。

図6 スキャノ画像からの寝台連動機能

図6 スキャノ画像からの寝台連動機能

 

まとめ

エリアファインダの最大の特長は,検査全体のスループットの向上と,一般撮影と同様の感覚でCT検査が可能な点であり,ほかに寝台によるX線吸収の影響を受けないこと,スキャノ画像を撮影しないことによる被ばく低減などの有用性もある。ただし,撮影範囲を事前に把握する必要があること,撮影できる症例が限定されることなどに注意を要する。
また,スキャノ画像からの寝台連動機能は,検査全体のスループットの向上,スキャノ画像を利用して正確な位置合わせの修正が可能,寝台移動後のAEC再計算による画質の安定化が大きなメリットである。
今後は,FIRSTを適用し,エリアファインダを用いてワイドボリュームの最大の特長である動態撮影を行うことを検討しており,より有用な情報を診療に提供していきたいと考えている。

 

 

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