CTの診断参考レベルDiagnostic Reference Level(s) 
井田 義宏(藤田保健衛生大学病院 放射線部)
Session 2

2015-12-25


井田 義宏(藤田保健衛生大学病院 放射線部)

2015年6月に医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME)から日本初の診断参考レベル(Diagnostic Reference Levels:DRLs)の報告書である「最新の国内実態調査結果に基づく診断参考レベルの設定」(DRLs 2015)が公表された1)。本講演では,J-RIMEの診断参考レベルワーキンググループCTチームに参加した経験を基に,CT検査を中心に診断参考レベルについて解説する。

診断参考レベルとは

DRLs 2015は,国内初の実態調査に基づいた診断参考レベルとして非常に大きな意義がある。DRLs 2015で用いられている主な用語を図1に示す。なお,診断参考レベルの略語として,DRLとDRLsが混在して使用されることがあるが,胸部CTなど1つの診断参考レベルはDRLを,複数の診断参考レベルはDRLsを使う。
DRLs 2015の中で,診断参考レベルとは「診断領域の医療放射線防護における最適化のツールである」と記されている。放射線検査には,正当化と最適化が求められる。正当化とは,検査の適応や有効性の判断,実施するかしないかを決定することであり,最適化とは,検査施行が決まった時に診断・治療の目的を担保した上で,低侵襲な検査の組み立てを行うことである。この最適化において診断参考レベルが活用される。

図1 DRLs 2015で用いられている主な用語

図1 DRLs 2015で用いられている主な用語

 

CTの診断参考レベル

医療被ばくの多くを占めるCT検査の最適化は,特に重要である。年間被ばく線量のうち,医療被ばくとCTによる被ばくが占める割合が,米国では48%と24%,日本では77%と43%というデータがある2)〜4)。現在は,CTによる被ばく低減キャンペーンが世界的に行われるようになっている。
CTの診断参考レベルを図2に示す。診断参考レベルは成人と小児で分けられ,部位ごとにCTDIvol,DLPの数値が設定されている。この数値をどのように解釈して使用するかということが重要となる。
診断参考レベルについて現場からは,「この数値を超えなければいいのか?」「載っていない部位はどうしたらいいのか?」「少なければいいのか?」「超えたらどうすればいいのか?」「患者さんへの説明に使っていいのか?」といった質問を受ける。診断参考レベルがどのように設定され,どのように活用されるものかがわかると,自ずとこれらの問いに対する答えが見えてくる。

図2 CTの診断参考レベル

図2 CTの診断参考レベル

 

診断参考レベルの設定方法と意味

診断参考レベルは,国または地域の市場調査を解析し,標準的な体格の患者で典型的な検査ごとの値と標準化された線量評価法を用いて,多くの場合は線量分布の4分の3位点(75パーセンタイル値)の値に設定される。
図3に,DRLs 2015の設定に用いた標準的な体格と標準化された線量評価法を示す。これらはモダリティごとに決められており,CTではCTDIvolとDLPを線量評価法としている。標準体格は,日本の実態調査を基に決定された。
診断参考レベルの値は,実態調査で集められた各施設の標準体格検査での代表値(中央値もしくは平均値)を数値の小さい施設から順に並べ,高い方から25%となる4分の3位点に設定されている。診断参考レベルの目的は,この比較的高いレベルを超えている施設に見直しを促し,最適化を求めることである。例えば,成人の頭部CTでは,4分の3位点は89.2mGyとなるが,実際には多くの施設でより少ない線量で撮影している(図4)。診断参考レベルは,その値をめざすのではなく,その値を超えた場合に何らかの対応を考える必要があることを意味している。

図3 標準的な体格と標準化された線量評価法

図3 標準的な体格と標準化された線量評価法

 

図4 診断参考レベル設定のデータ収集・分析(JARTの解析段階でのデータ)

図4 診断参考レベル設定のデータ収集・分析
(JARTの解析段階でのデータ)

 

被検者の体格と診断参考レベル

DRLs 2015では,CT検査における成人の標準体格を50〜60kgと設定している。この標準体格の被検者を撮影する場合と同じ条件でファントムを撮影した時の線量がCTDIとなる。つまり,CTDIとはファントムでの線量であり,個々の被検者の線量ではないことに注意が必要である。
実際の検査では,被検者の体格によって照射線量が変更される。体格の大きい被検者の場合は,診断の質を担保するために診断参考レベルを超えた線量の照射も必要である。反対に,体格の小さい被検者に対して診断参考レベルのCTDIで撮影した場合,臓器線量が多くなり,被ばくを増やす危険性があるので注意が必要である。
なお,CTDIとDLPは,最近の装置であればコンソールで確認することができる。検査前には予測線量が確認でき,検査後にはDICOMの情報として画像に付随して保管され,照射録機能で画像としてPACSでも確認できる。

診断参考レベルの注意事項

診断参考レベルの注意事項を以下にまとめる。

  • 市場調査の4分の3位点の値であり,平均値や中央値よりも高い値となっている。
  • 適切な診療と不適切な診療を区別する線引きに用いてはならない。
  • 線量の最適値ではない。線量の最適値は,各施設の治療や診断の質,装置のレベルで考える必要がある。
  • 線量の制限値ではない。新しい技術や診療に必要など臨床的に正当化される場合,体格の大きい被検者の場合は,診断参考レベルを超過してもよい。
  • 診断参考レベルはファントムを撮影した場合の線量値であるため,個々の被検者に適応すべきではない。
  • CTDIは機器の精度管理に用いられる指標であり精度は低いため,個々の被検者のリスク評価に用いるべきではない。

 

診断参考レベルの目的は最適化であって,線量低減ではない。異常に高い線量の施設を特定し,最適化のプロセスを推進するためのツールであることを認識する必要がある。

診断参考レベルの活用法

診断参考レベルは施設内で次のように活用できる。まず,自施設の代表的な検査の中から,標準的体格の被検者のCTDI,DLPを10例ほど集めて平均を算出し,診断参考レベルと比較する。もし,線量が診断参考レベルを超えている場合,臨床的に正当な理由がないかぎり,線量を最適化するための見直しを推奨する。また,常に最新の診断・治療を行えるように,定期的にプロトコルを見直し,診断参考レベルと比較することも重要である。なお,新規に装置を導入する場合には,より高い頻度でプロトコルをチェックするとよい。患者の検査を始める前の評価はもちろん,3〜6か月程度の経験が得られた後に再評価することが望ましい。臨床で必要なことは,最高の画質を求めるのではなく,診療に必要十分な画質を求めることであり,そのために画質について,診断医,治療医,診療放射線技師が協議することが大事である。
現在はプロトコルの標準化も進められており,2015年9月には日本放射線技術学会から,診断参考レベルも盛り込んだ『X線CT撮影における標準化〜GALACTIC〜』の改訂2版が発行されている。

今後の取り組みについて

DRLs 2015公表後,診断参考レベルを普及・啓発し,最適化を推進していくために,診断参考レベルの策定にかかわったメンバーが各地で講演を行っている。
今後は,定期的な改訂のための標準的な調査方法の確立が求められる。効率の良い調査分析法の開発も進められており,現在,DICOM情報を活用した収集法であるDose Index Registry(DIR)が提唱されている。さらに,医療の質を担保するために,国際的な診断参考レベルと比較することも考えられている。

1.DIR
DIRは,DICOMの中の線量情報RDSR(Radiation Dose Structured Report)を利用した線量指標の登録制度である。各病院から匿名化したDICOMデータを公的サーバに集約し,解析したデータを病院や公的機関などで活用するもので,米国では2011年から始まっている。公的サーバには,検査ごとの被ばく線量や体格,検査情報が自動的に集約され,アンケート調査よりも正確な情報を得ることができる。現状では,医療情報のコードと検査プロトコルが合致しないといった課題があるため,導入に向けて整合を図っていく必要がある。

2.国際的に見た日本の診断参考レベル
日本と欧米では,体格差や医療制度の違い,装置の普及台数の差があるため直接比較することはできないが,各国の診断参考レベルと比較検討することも最適化に有用である。日本では頭部CTの線量が多いことが以前から言われており,今回の調査でも,欧米よりも高い結果となった。日本人と欧米人の体格差を考えると,日本の方が低い値であるべきだと思われるが,デメリットに勝る欧米に劣らぬエビデンスを出していかなければならない。
近年は小児の被ばくが重要視されており,成人と同様に頭部CTの線量が多い傾向にあるため,最新の被ばく低減技術を用いて,被ばく低減に努めることが求められる。

まとめ

診断参考レベルを理解することで,現場が抱く疑問の答えが見えてくる。診断参考レベルを理解して各施設で活用し,検査の最適化に努めてほしい。

●参考文献
1)医療放射線防護連絡協議会,日本小児放射線学会,日本医学物理学会・他:最新の国内実態調査結果に基づく診断参考レベルの設定.
http://www.radher.jp/J-RIME/report/DRLhoukokusyo.pdf
2)米国放射線防護審議会: NCRP-2008.
http://www.crcpd.org/default.aspx
3)UNSCEAR : Medical Radiation Exposures ; Sources and Effects of Ionizing Radiation. UNSCEAR 2008 Report, Annex A, New York, United Nations, 2010.
4)赤羽恵一 : 2. 医療被ばくの現状 ; 医療における放射線防護─エビデンスに基づいて現場の質問に答える. INNERVISION, 25・6, 46 〜49, 2010.

 

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