セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第77回日本医学放射線学会総会が2018年4月12日(木)〜15日(日)の4日間,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。14日(土)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー11では,国際医療福祉大学学長の大友 邦氏が司会を務め,大阪大学大学院医学系研究科放射線医学教授の富山憲幸氏,広島大学大学院医歯薬保健学研究科放射線診断学研究室教授の粟井和夫氏,慶應義塾大学医学部放射線科学教室教授の陣崎雅弘氏が,「次世代CT / 技術による臨床最前線」をテーマに講演を行った。

2018年7月号

第77回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー11 次世代CT / 技術による臨床最前線

Deep Learningを用いた画像再構成技術の躍進

粟井 和夫/檜垣  徹/中村 優子/立神 史稔(広島大学大学院医歯薬保健学研究科放射線診断学研究室)

人工知能(AI)の画像診断への応用は,一般的には領域・臓器のセグメンテーションやボリュームメトリ,病変の自動検出,病変部のテクスチャ解析など,「診断」という行為に対して行われていることが多い。一方,キヤノンメディカルシステムズ社とわれわれは新たなアプローチとして,AI技術の一つであるdeep learningを用いて設計された画像再構成法“Deep Learning Based Reconstruction(DLR)”による画質向上の研究を足掛け2年にわたり行ってきた。本講演では,CTにおける画像再構成法の解説,DLRの臨床画像を供覧し,最後にDLRの物理特性も報告する。

CTにおける画像再構成法

CTの画像再構成アルゴリズムには,FBP,hybrid-IR(h-IR:AIDR 3Dなど),model based-IR(MBIR:FIRSTなど)があるが,今回新たにDLR(AiCE:Advanced Intelligent Clear-IQ Engine)を開発した。
X線を人体に照射すると投影画像(サイノグラム)が作成される。それをデータ空間上に逆投影して,全方向からの逆投影データを加算(back projection)することで断層像が復元される。ただし,単純に逆投影するとボケた画像となるため,投影データにフィルタリングを行って逆投影するのがFBPであるが,ノイズやストリークアーチファクトがかなり残存する。また,h-IRでは,投影データ上で反復的なノイズ除去を行い,その投影データから逆投影して断層像を得る。さらに,MBIRでは,基の投影データを逆投影し,逆投影画像に対して仮想的にCTスキャンを行った順投影画像と基の投影データとの差分を取り,画質改善に役立つデータのみを次のデータに反映する。つまり,更新した生データの逆投影画像を作って,そこから順投影画像を作り,また差分を求めるという過程を繰り返し行う。そのため,画像再構成には非常に時間がかかる。
一方,DLRでは,例えば低線量のinputデータと,それに対応する高品質データ(target)を用意し,deep learningでニューラルネットワークを教育する。この教育されたニューラルネットワークに新たに撮影された投影データを入れると,画質が改善された画像が生成される(図1)。

図1 DLRによる画像再構成の概要〔画像提供:キヤノンメディカルシステムズ株式会社(一部改変)〕

図1 DLRによる画像再構成の概要
〔画像提供:キヤノンメディカルシステムズ株式会社(一部改変)〕

 

DLRの臨床画像

1.転移性肝腫瘍における検討1)
図2は,70歳代,男性,大腸がん肝転移症例である。h-IR画像と比較し,DLR画像ではノイズが大幅に低減し,かつ鮮鋭度が保たれている。
転移性肝腫瘍58症例についてノイズを比較したところ,h-IRの19.2HUに対し,DLRでは12.8HUと低減していた。また,CNRの比較では,h-IRの1.9に対し,DLRでは2.5と改善していた。

図2 大腸がん肝転移における画質比較1)

図2 大腸がん肝転移における画質比較1)

 

2.肺野の低線量CTにおける検討
図3は,50mAsで撮影した低線量CT検診における肺野の画像で,被ばく線量は約1.5mSvである。FBPで認められるノイズがDLRでは大幅に低減し,鮮鋭な画像となっている。
また,各線量域における肺野の画像(図4)を比較すると,DLRでは0.5mAsで撮影した最低線量(0.15mSv)の画像でも,標準線量のFBP画像とほぼ遜色のない画質が得られている。

図3 低線量CT検診における肺野の画質比較

図3 低線量CT検診における肺野の画質比較

 

図4 各線量域における肺野画像の比較

図4 各線量域における肺野画像の比較

 

3.心臓CTにおける検討
図5は,各線量域における心臓CT画像の比較である。dose modulationを用いて192mAsと46mAsで同時収集しているが,DLRでは通常の1/4線量でも標準線量のFBPと同等,もしくはそれ以上の画質が得られている。
通常の心臓CTでも,FBPやh-IRに比べて,DLRでは非常に明瞭な画像が得られている。また,心臓の下にある肝臓では相対的にX線量が不足し,FBPではノイズが目立つが,DLRではノイズがかなり強く抑制されている(図6)。

図5 各線量域における心臓CT画像の比較

図5 各線量域における心臓CT画像の比較

 

図6 心臓CTにおける画質の比較

図6 心臓CTにおける画質の比較

 

4.超高精細CTへのDLRの適用
超高精細CT「Aquilion Precision」で撮影した腹部画像へのDLRの適用では,0.5mmスライス厚でも十分に評価に耐えうる画像が得られている(図7)。

図7 超高精細CT(Aquilion Precision)における腹部画像の比較

図7 超高精細CT(Aquilion Precision)における腹部画像の比較

 

DLRの物理特性

FBP,AIDR 3D,AIDR 3D Enhanced,FIRST,DLRの各種画像再構成法について,物理特性を比較した。
画像ノイズ量について,縦軸を画像SD,横軸を管電流として比較したところ,DLRはどの線量域においてもノイズが強く抑制されていた。
noise power spectrum(NPS)について,300mA,200mA,100mAでそれぞれ比較したところ,従来の再構成法では線量が下がると全体的にノイズが増加するが,DLRでは100mAにおいても,すべての周波数領域でノイズが強く抑制されていた。
水ファントムを300mAs,200mAs,100mAs,50mAsで撮影し,各種画像再構成法のテクスチャを評価したところ,従来の再構成法ではFIRSTでも50mAsになると低周波ノイズが少し目立ってくるが,DLRでは50mAsでもテクスチャが比較的保たれていた。
また,155mAs,50mAs,25mAsにおけるMTFについても検討したところ,低周波領域では概してDLRが最も高値であったが,高周波領域ではFIRSTの方が良好な結果を示した。

まとめ

DLRは,劇的なノイズ低減と高い空間分解能を両立することが可能である。また,DLRの特長のうち特に重要なのは,どのような患者や低線量撮影でも高画質の画像再構成が可能であり,頑健性が高いことであると考えている。現時点で,DLRの画像再構成時間はMBIRの1/3〜1/5であり,実用的な演算時間を実現している。

●参考文献
1)Nakamura, Y., et al. : Improvement of diagnostic image quality of abdominal CT by using a deep learning based reconstruction ; Initial clinical trial targeting hepatic metastases. ECR 2018, SS-601a, 2018.

 

粟井 和夫

粟井 和夫(Awai Kazuo)
1986年 広島大学医学部卒業。90年 同大学院医学系研究科修了。近畿大学放射線医学講座講師,熊本大学大学院画像診断解析学講座特任教授などを経て,2010年より広島大学大学院医歯薬保健学研究科放射線診断学研究室教授。2018年からは同大学院医歯薬保健学研究科副科長併任。

 

 

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