セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第34回日本画像医学会が2月27日(金),28日(土)の2日間,ステーションコンファレンス東京(東京・千代田区)にて開催された。28日に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー14では,埼玉医科大学放射線科教授の新津 守氏を座長に,自治医科大学附属さいたま医療センター放射線科の濱本耕平氏と北海道大学病院放射線診断科の真鍋徳子氏が,「CT・MRIの最新臨床応用」をテーマに講演した。ここでは,濱本氏の講演内容を報告する。

2015年5月号

第34回日本画像医学会 ランチョンセミナー14 CT・MRIの最新臨床応用

Vantage Titan™ 3T を用いた非造影MRA─ 肺血管・血流動態イメージングの臨床応用─

濱本 耕平(自治医科大学附属さいたま医療センター放射線科)

自治医科大学附属さいたま医療センターではIVRに特に力を入れており,年間実施件数は約500件に上る。このうち,肺動静脈奇形コイル塞栓術は年間約20症例であり,これは,2013〜14年の日本インターベンショナルラジオロジー学会登録施設の中では最多である。
われわれは現在,3台のMRI装置のうち3Tである東芝メディカルシステムズ社製「Vantage Titan 3T」を幅広く活用している。本講演では,MRIの最後のフロンティアと言われる肺野・肺血管領域におけるMRIの役割,非造影MRAによる肺血管・血流動態イメージングの基礎および臨床応用について述べる。

肺野・肺血管領域におけるMRIの利点と役割

肺野領域のMRIは,空気・組織の境界部のsusceptibility effectによる磁場の不均一性に伴う急速な信号減衰,低い水分含有量,心拍と呼吸運動によるモーションアーチファクトの課題があり,現在は主にCTが用いられている。一方,CTと比較したMRIの利点として,(1) 被ばくがない,(2) 質的診断が可能,(3) 非造影MRAは造影剤の副作用なく血流評価が可能,(4) 血流動態評価が可能,(5) CTで生じる種々のアーチファクトの低減などが挙げられる。
また,3T MRIでは,SNRは高くなる一方,静磁場の均一性が不良となるが,Vantage Titan 3Tでは,より広範囲での高い静磁場均一性が得られる“Conformテクノロジー”や2チャンネル4ポートの“Multi-phase Transmission”によって,B ,B1の不均一性が改善された。この結果,肺野・肺血管MRIの画質が改善されている。
肺野・肺血管領域におけるMRIの役割には,肺腫瘤の存在・質的診断,肺血管の解剖学的評価,肺血流動態評価があるが,ここでは肺血流動態評価について当センターにおける検討結果を述べる。

非造影MRAによる肺血管・血流動態イメージングの基礎

1.非造影MRAの手法
肺血管の撮像には制約が多く,使用可能な非造影MRA手法はFBI(Fresh Blood Imaging)法とTime-SLIP(Time-Spatial Labeling Inversion Pulse)法が中心となる。
FBI法は,心周期による流速の違いを反映した拡張期画像と収縮期画像をFast SE(以下,FASE)系の水(血液)強調画像で撮像し,サブトラクションにて動静脈を分離する手法である。簡便かつ比較的短時間で施行可能であるが,選択的血流動態評価は困難である。
一方,Time-SLIP法はarterial spin labeling(ASL)の一種であり,反転パルスを用いて関心領域の血流を選択的に描出できる。その際,ある程度の時間を置いて血流が移動したタイミングで収集を行うblack blood time interval(以下,BBTI)を変化させることで,いろいろな相の血流動態評価が可能なことが最も特徴的な利点と言える。

2.Time-SLIP法の種類
Time-SLIP法はMove-In法とMove-Out法に大別され,Move-Out法にはMove-Out(Double IR)法とMove-Outサブトラクション法の2つがある。Move-In法は,選択的IRパルスを印加して関心領域内の背景信号を抑制し,関心領域内に流れ込む血流をin-flow効果でbright bloodとして描出する手法である(図1a)。また,Move-Out(Double IR)法は,最初に非選択IRパルスをかけて全体の背景信号を抑制し,その後,関心領域内にTime-SLIPパルスを印加すると,その部分が反転してbright bloodとなるので,BBTI時間待ってから撮像すると流出していく血流がbright bloodとして描出される(図1 b)。一方,Move-Outサブトラクション法は,関心領域内にtagを設定しBBTI時間待つと,tag化された血流はblack bloodとなるので,それをtag化していない画像とサブトラクションすることで,見たい血流がin-flow効果によりbright bloodとして描出される(図1 c)。正確なサブトラクション画像を得るためにはtag on/off画像が正確に同期している必要があるが,原理的にはMove-Outサブトラクション法が最も簡便に施行できると思われる。

図1 Time-SLIP 法の種類

図1 Time-SLIP 法の種類

 

肺野・肺血管領域に最適な非造影MRA手法

1.肺動静脈奇形における非造影MRAのメリット
非造影MRAによる肺血流動態評価において,最も良い適応は肺動静脈奇形と肺静脈瘤である。肺動静脈奇形は,合併症として脳梗塞や脳膿瘍,低酸素血症などがあり,若齢の遺伝性出血性毛細血管拡張症(以下,HHT)患者が合併することが多い。術前診断は通常,造影CTや造影MRAが行われ,確定診断は血管造影検査,標準治療は経カテーテル的コイル塞栓術となる。しかし,造影CTは,若齢のHHT症例では頻回検査による被ばく量の増加が問題となるほか,コイル塞栓後は金属アーチファクトによる画像の劣化やヨード系造影剤の副作用,造影剤タイミング依存性のため血流動態評価が難しいという課題もある。
一方,Time-SLIP法併用非造影MRAは,被ばくや造影剤の侵襲もなく,選択的血行動態評価が可能で,何度でも施行可能というメリットがあり,肺動静脈奇形の診断および治療効果判定に有用な可能性がある。

2.Time-SLIP法併用非造影MRAの撮像法の検討
Time-SLIP法併用非造影MRAによる肺血流動態評価について,当センターにて検討を行った。
まず,3Tと1.5Tについてプラチナコイルで塞栓したコイルファントムを用いて比較したところ,3Tの方が高空間分解能画像が得られるが,コイルアーチファクトはやや強かった。次に,Move-In法,Move-Out(Double IR/サブトラクション)法の比較,およびFASEとSSFPの比較では,Move-Outサブトラクション法とFASEの方が血管末梢まで明瞭に描出できていた。さらに,至適BBTIについて,BBTIを変化させて検討した結果,肺動脈主幹部ではTime-SLIPパルスを印加してからBBTI=700〜900msで撮像すると,血管末梢までの良好な描出が得られることがわかった。
図2に,Time-SLIP 3D-FASEサブトラクション(以下,Time-SLIP)法の原理を示す。はじめにtag offで撮像すると肺動静脈が同時に描出され,次にtag onにするとTime-SLIPパルスが右心系に印加されるので,肺動脈がblack bloodとなる。そして,tag off画像からtag on画像をサブトラクションすると,肺動脈だけが描出される。

図2 Time-SLIP 3 D-FASEサブトラクション 法の原理

図2 Time-SLIP 3 D-FASEサブトラクション 法の原理

 

Time-SLIP法による肺動静脈奇形の評価

1.未治療病変の症例提示
症例1は,40歳代,女性。Time-SLIP法にて肺動脈のみを選択的に撮像すると,MIP画像にて左下葉A8に2つの供血動脈(feeder)を持つvenous sacが明瞭に描出される(図3→,←)。血管造影画像とも高い相関が得られており,非造影でもここまで描出可能である。本法では動脈,静脈それぞれの選択的な血行動態評価が可能なため(図4),肺静脈瘤との鑑別においても非常に有用である。
症例2は,20歳代,女性。HHTにより,両肺に動静脈奇形が多発している(図5)。Time-SLIP画像では,供血血管径が1.5mmの細小肺動静脈奇形が,CTとほぼ同等の画質で描出されている。また,肺動脈血流の選択的な描出が可能なため,より正確な病変の把握が可能である。血管造影画像とも高い相関が得られた。

図3 症例1:肺動静脈奇形(未治療病変,40歳代,女性)

図3 症例1:肺動静脈奇形(未治療病変,40歳代,女性)

 

図4 症例1の肺動脈・肺静脈選択的画像

図4 症例1の肺動脈・肺静脈選択的画像

 

図5 症例2:肺動静脈奇形(未治療病変,20歳代,女性)

図5 症例2:肺動静脈奇形
(未治療病変,20歳代,女性)
↓供血動脈,▶ venous sac,→,→供血動脈

 

2.Time-SLIP法による病変検出能の検討
当センターの肺動静脈奇形未治療の9症例,23病変のTime-SLIP画像について,2名の放射線科医がブラインド評価を行った。その結果,イメージスコアは最低が1,最高が4の4段階で平均3.5点と高く,観察者間の一致率も高かった。venous sacの描出率は100%,供血動脈同定率は91.3%,検出可能な最小供血動脈径は0.9mmであり,ルーチンで使用可能と考えられる。

3.塞栓後病変の症例提示
肺動静脈奇形のコイル塞栓後においては再疎通の評価が重要となる。CTでは金属アーチファクトにより検出率が低いことから,Time-SLIP法にて検討を行った。
症例3は,50歳代,男性,右S2病変である。コイル塞栓後(図6下段)の造影CT画像では病変部は評価不能であるが,Time-SLIP画像ではコイルの先にvenous sacが描出されており,再疎通が疑われた。血管造影画像も同様の所見であった。このことから,CTと比較して,Time-SLIP法ではかなり良好な成績が得られると思われる。
当センターの6症例,13病変において,venous sacの描出をカットオフとして再疎通検出能を評価したところ,Time-SLIP法では感度・特異度共に100%という結果が得られた。これにより,Time-SLIP法は描出能に優れ,診断率も高いことが明らかとなった。

図6 症例3:肺動静脈奇形コイル塞栓後再疎通評価(50歳代,男性)

図6 症例3:肺動静脈奇形コイル塞栓後再疎通評価(50歳代,男性)
→,→供血動脈,▶ venous sac

 

Time-SLIP法による肺静脈瘤の評価

肺静脈瘤は,短絡血流がないため合併症がなく,治療も必要ないが,肺動静脈奇形と形態が類似するため鑑別を要し,血流動態評価が必要である。通常,診断は造影CTもしくは血管造影にて行われるが,Time-SLIP法にて診断が可能であれば,血管造影検査は不要になる可能性がある。

1.症例提示
症例4(図7)は,50歳代,女性で,造影CT画像およびTime-SLIP法のtag off画像にて,右中葉に異常に拡張した血管が認められる。tag on画像(肺静脈)では同部に異常血管が描出されているが,Time-SLIP画像(肺動脈)では認められず,本症例は肺静脈瘤と考えられる。血管造影画像でも同様の所見であり,当センターでは以後,このような症例については血管造影検査を行わずに経過観察することが可能となった。

図7 症例4:肺静脈瘤症例(50歳代,女性)

図7 症例4:肺静脈瘤症例(50歳代,女性)

 

Time-SLIP法の課題と展望

Time-SLIP法は,現状では撮像時間が長い,サブトラクションを行うため不規則呼吸患者では画像が劣化する,心臓近傍の病変は心拍動によるアーチファクトやTime-SLIPパルス印加範囲による制限があるなど,いくつかの課題が残されている。しかし,最近では,パラレルイメージングの進歩や圧力センシングの応用などによるさらなる高速撮像,高精度横隔膜同期による呼吸同期精度の向上,局所励起による血流選択性の向上といった技術革新が進んでおり,これらのさらなる発展により上記の課題が解決し,より良好な肺野MRIが可能になると考えている。

まとめ

肺野においてもMRI,MRAは有用であり,特にTime-SLIP法においては,従来用いられてきたモダリティを上回る臨床情報を追加することが可能である。MRIは,肺野領域においてpromising toolになると思われ,今後,この技術を応用して肺MRIのさらなる発展に努めていきたい。

 

濱本 耕平

濱本 耕平(Hamamoto Kouhei)
2001年 北海道大学獣医学部卒業。2009年 群馬大学医学部医学科卒業。同年 自治医科大学附属さいたま医療センター研修医。2011年 同センター放射線科入局。2014年より自治医科大学附属さいたま医療センター放射線科病院助教。放射線科専門医。

 

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