Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2018年11月号

新幹線駅から徒歩3分に東海地方初の民間病院の陽子線治療施設がオープン 〜超伝導加速器とシングルルームのコンパクトな設計とスキャニング照射で精密な治療を提供〜

成田記念陽子線センター

成田記念陽子線センター

 

社会医療法人明陽会は、2018年4月に東海地方では民間病院初となる陽子線治療施設として「成田記念陽子線センター」を開設した。陽子線治療装置として「PROTEUS® ONE」(ベルギーIBA社製)を採用し、小型化した加速器とシングルルームの照射室という構成によって、東海道新幹線の停車駅である豊橋駅から徒歩約3分という市街地で陽子線治療施設の立ち上げを実現した。同センターの立ち上げの経緯と運用について、成田 真理事長、栁 剛院長とスタッフ、また、同センターの技術顧問を務める西尾禎治教授(東京女子医科大学大学院医学研究科医学物理学分野)に取材した。

成田 真 理事長

成田 真 理事長

栁 剛 院長

栁 剛 院長

東京女子医科大学・西尾禎治 教授

東京女子医科大学・
西尾禎治 教授

     
冨田真司 医学物理士

冨田真司 医学物理士

高石義幸 技師

高石義幸 技師

 

 

急性期から在宅介護まで地域に密着した医療を提供

社会医療法人明陽会は、愛知県豊橋市で成田記念病院(急性期、284床、以下、本院)、第二成田記念病院(回復期、96床)、明陽クリニック(透析ベッド148床)などの医療機関のほか、老人保健施設(明陽苑)や訪問看護ステーションなども運営し、急性期医療から在宅介護までシームレスに提供する体制を整えている。成田理事長は、「戦後まもなく祖父が開設した診療所をルーツとして、以来、70年にわたって地域に密着した医療を展開してきました。地域でいち早く透析医療を手掛けたことで発展し、常に最先端の医療を地域に提供することを心掛けてきました」と経緯を説明する。
成田記念病院では、1988年から名古屋市立大学放射線医学教室と連携して放射線治療を開始、2012年に移転新築した本院ではトモセラピーを導入するなど力を入れてきた。成田理事長は放射線治療への取り組みについて、「超高齢社会を迎える中で患者さんにより低侵襲な治療法を提供したいと考え、早くから整備してきました。本院の移転を機に設備を充実させたことで、地域の医療機関からの紹介も増え、治療件数は増加しています」と説明する。
今回の陽子線センターの立ち上げについても、成田理事長は明陽会の理念である“人のやさしさと温かさを根源にした先進の医療を目指して”という理念に沿ったものだとして次のように述べる。
「陽子線治療についても、10年以上前から、いずれ放射線治療のスタンダードになるだろうと考えて、いつかは導入したいと思っていました。今回、移転新築した本院の運営が軌道に乗ったこともあり、旧病院跡地を利用して実現することができました」

テニスコート1面に収まるコンパクトな陽子線治療装置

陽子線治療装置として選定されたのが、IBA社の最新機種となるPROTEUS® ONEである。成田理事長は陽子線治療装置の選定の経緯について、「狭い敷地にも設置可能なコンパクトな装置が条件でした。国産の装置は大型のものが多いため、超伝導加速器とシングルルームで小型化したPROTEUS® ONEを選定しました。国内の第1号機となることから懸念もあったのですが、照射方式の先進性、ランニングコストなど事業として採算性もトータルに考慮して導入を決定しました」と述べる。
IBAは、陽子線治療システムでは全世界でトップシェアを誇り、多くの稼働実績を持つ。PROTEUS® ONEは、そのIBAが都市部への設置も見据えた陽子線治療装置として開発したものだ。現在、世界では24施設で稼働または導入準備中であり、日本では同センターのほか1施設に導入されている。国内では、2016年12月に薬機法承認を受けた後、キヤノンメディカルシステムズ(当時は東芝メディカルシステムズ)が販売を展開している。
PROTEUS® ONEの特徴の一つが、コンパクトな設置性である。加速器、治療室、操作室、遮蔽壁などがテニスコート1面(30m×12m)と同等の敷地に設置することができる。これは、超伝導によって加速器(シンクロサイクロトロン)を小型化したこと、さらに360°ではなく220°をカバーするオープンガントリを採用したことで実現した。成田理事長はPROTEUS® ONE選定について、「コンパクトなだけではなく、超伝導の加速器で年間の電気代が従来の装置に比べて1/4程度となっており、コストを抑えた運用が可能なことも大きなポイントでした」と述べる。

220°のオープンガントリで広い作業スペースを確保

220°のオープンガントリで広い作業スペースを確保

 

ペンシルビームスキャニングでの精確な照射を実現

PROTEUS® ONEは、照射方式としてスキャニング法を採用している。スキャニング照射は、従来のパッシブ照射と比べ、細いビームをがんの形状に合わせて照射して、より精度の高い治療が可能になる。PROTEUS® ONEはスキャニング照射専用機であり、ペンシルビームスキャニング(PBS)によって複雑な形状のがん組織に対して最適な線量を照射できる。西尾教授はPROTEUS® ONEのアドバンテージについて、「スキャニング専用機で、ペンシルビームのスポットサイズが小さいことが特徴です。シミュレーションのデータを見ても低いエネルギーでもビームがコントロールされていて、ターゲットに対してきれいに照射できています。特に頭頸部腫瘍などでは、複雑な形状に合わせて浅部から深部まで照射することが求められるので、ビームの精確なコントロールによって治療効果への寄与が期待できます」と述べる。
栁院長は、PROTEUS® ONEによる治療について、「陽子線は線量集中性が高く、周辺臓器への無駄な被ばくが少ないことが特徴です。PROTEUS® ONEでは、さらにPBSによって腫瘍に合わせてビームを集中させることができ、正常組織の安全性が担保されます。その上で、線量を増やすことができれば治療効果の向上が期待されますし、同等の線量であればより安全な治療が可能になります」と述べる。
また、治療のワークフローもオープンガントリによる患者へのアプローチのしやすさや、床に埋め込まれたX線管とフラットパネルディテクタによる位置決め、6軸駆動のベッドなどでスムーズな治療が可能になっている。現場の運用について、診療放射線技師の高石義幸氏は、「イメージガイドによる位置合わせの精度が高く、スループットの良い運用が可能になっています」と評価する。

■PROTEUS® ONEの線量分布画像

図1 前立腺がんの治療

図1 前立腺がんの治療

 

豊富な稼働実績を生かした短期間の稼働

PROTEUS® ONEでは、施設立ち上げやQAについても従来に比べて短期間で簡素化されている。同センターでは、装置の搬入から引き渡しまで、11か月という短期間で設置が終了している。国立がん研究センター東病院などで陽子線治療施設の立ち上げに豊富な知見を持つ西尾教授は、今回の同センターの導入作業について次のように述べる。
「従来の陽子線治療装置に比べて立ち上げがスムーズだったことはもちろんですが、治療初日もスタッフが特別な対応をすることもなく、普通にたんたんと準備をして最初の照射が始まったことが印象的でした。従来の陽子線治療装置では考えられないことで、陽子線治療装置は特別な装置から、X線治療装置と同様な装置へ近づきつつあることを実感しました」
IBAは全世界で多くの稼働サイトを持つが、導入に当たってもそのノウハウが生かされている。現場で装置の調整やQAを担当する医学物理士の冨田真司氏は、「陽子線治療装置を扱うことは初めてでしたが、他施設のデータを参考にしながら進めることができました。これまでは自作の測定機器を使っている施設もあったと思いますが、PROTEUS® ONEではQAなどの機器やソフトウエアがあらかじめそろっており、X線治療装置に近い感覚で扱うことができると感じました」と述べる。

陽子線治療の利点を生かした治療を提供

同センターでは、2018年9月7日から治療(照射)を開始した。栁院長は同センターでの治療体制について、「まずは前立腺がんの患者を対象に、4月からホルモン療法を始めて9月から照射を開始しました。当初は1人30分枠で1日8時間の稼働時間で16人を治療するスケジュールです。10月から保険診療と先進医療を順次スタートする予定です」と述べる。
陽子線治療は2016年に小児腫瘍が保険適用となり、2018年の診療報酬改定では領域が拡大している。成田理事長は、「保険診療の適用拡大によって、今後は患者さんが増えると予想しています。前立腺がんの治療からスタートしましたが、順次、頭頸部や肝臓、肺などにも取り組んでいきます。立地の良さから西は西三河、東は東京までカバーできると考えていますし、中国などからのメディカルツーリズムの展開も検討中です」と述べる。
栁院長は、「今は患者さんが、自分でインターネットで口コミを調べて、その上で選択する時代です。その期待に応えられるように一人ひとりの患者さんをていねいに治療していくことが必要です。陽子線は副作用が少ないことがメリットですので、患者さんだけでなく従来のX線による放射線治療でマイナスのイメージを持っている外科医や開業医の先生方に対しても、最新の陽子線治療の姿をきちんと啓発していくことも重要だと考えています」と今後の取り組みについて述べる。
成田理事長はセンターの今後について、「陽子線治療は採算性だけではなく、医療に絶対に必要なものは取り入れるという理念で取り組んだものです。今後、陽子線治療は放射線治療の主流となる治療だと確信しています。そのためにもできるだけ多くの患者さんに対応できる体制を整えるのと同時に、さまざまなデータを蓄積して陽子線治療の発展に貢献していきたいと思います」と述べる。
X線治療装置と変わらない運用を可能にするPROTEUS® ONEは、陽子線治療の新たな方向性を示しているのかもしれない。

(2018年9月18日、 25日取材)

 

社会医療法人明陽会 成田記念陽子線センター

社会医療法人明陽会 成田記念陽子線センター
愛知県豊橋市白河町78
TEL 0532-33-0033

 

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