次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2019年3月号

No.203 AZE VirtualPlaceで作成する心電図同期CTAにおける急性期大動脈解離のvirtual endoscopy

小島 正歳(医療法人社団誠馨会 千葉メディカルセンター放射線部)

当院における大動脈解離の撮影

当院では,救急外来にて大動脈解離が疑われる患者に対し,心電図同期CT angiography(以下,CTA)を全例で実施している。心電図非同期CTAでは,拍動による動きのアーチファクトが要因となり,特に上行大動脈領域において診断能が低下する。一方,心電図同期CTAは,大動脈疾患に対し詳細な情報が得られるが,手技の煩雑さと検査時間の延長により,救急医療の現場では検査適応の妨げになってきた1)
そこで当院では,患者の入室から退室までを20分以内で行えるよう,すべてのスタッフにトレーニングを行ってきた。現在では,大きなトラブルがなければ15分以内で実施できる検査となった。

大動脈解離

上行大動脈に解離が及ぶStanford A型は,きわめて予後不良な疾患であるため,緊急手術の適応となる。亀裂(tear)が上行大動脈にとどまっている場合は,上行大動脈置換術が行われる。弓部にまで解離が及ぶ場合に行われる弓部大動脈置換術も,以前は手術成績が芳しくないために敬遠されてきたが,手術成績の向上から,一定の条件下で積極的に試みられるようになってきた。
このような症例では,大動脈の頸部分枝(腕頭動脈,左総頸動脈,左鎖骨下動脈)に及んだ解離フラップ(flap)の断裂の評価も重要である。また,Stanford A型でも,偽腔閉塞型かつ入口部(entry)が上行に位置しない場合には,待機的な治療の成績が良いことが報告されている2),3)。つまり,上行大動脈をアーチファクトなく撮影することが,正確な診断をする上で重要となる。

心電図同期CTAの撮影と画像の作成

当院では,心電図同期CTAで撮影した画像を「AZE VirtualPlace」(AZE社製)に送信し,ポストプロセス解析を行っている。
CT装置はシーメンス社製の「SOMATOM Definition AS」と「SOMATOM Definition Flash」を導入し,本検査はいずれの装置でも同様の撮影条件にて実施している。造影剤の注入方法は,ヨード造影剤を4mL/sで80mL注入後,造影剤20mLと生理食塩水20mLの混注法にて後押しを行っている。
再構成画像は,上行から下行大動脈を長軸で描出するために,MPR画像(斜位矢状断像)と大動脈全体の3D-VR画像の作成を行っている(図1)。これに加え,仮想内視鏡画像(virtual endoscopy:VE)のような大動脈内腔を観察できる画像をAZE VirtualPlaceで作成することで,手術時に外科医が開胸していく様子に似せた術前画像を提供することができる。また,造影剤を短時間に高濃度で注入することで,上行大動脈から遠位弓部まで均一なCT値を担保できるようになっている。そうすることで,3D-VR画像にて大動脈内腔のCT値を閾値にし,内腔を削除したVR画像の作成が可能になった。さらに,カラーマップを保存しておくことで,すべての症例にて簡便にVR画像を作成できる。

図1 大動脈解離症例でのMPR画像と3D-VR画像

図1 大動脈解離症例でのMPR画像と3D-VR画像

 

症 例

症例1(図2)は,74歳,女性,急性大動脈解離Stanford A型(偽腔閉塞型)の症例である。上行大動脈にentryを認め,再入口部(re-entry)のないことが確認できる。解離腔は腕頭動脈の近位にまで存在し,上行大動脈置換術と腕頭動脈のグラフトが実施された。

図2 症例1:急性大動脈解離Stanford A型(偽腔閉塞型,74歳,女性) →:entry,↓:flap

図2 症例1:急性大動脈解離Stanford A型(偽腔閉塞型,74歳,女性)
:entry,:flap

 

症例2(図3)は,68歳,男性,急性大動脈解離Stanford A型(偽腔開存型)の症例である。解離は腕頭動脈,左総頸動脈,左鎖骨下動脈の3分枝に及んでおり,VE画像でもその様子を表すことができている。また,真腔・偽腔共に血栓はなく,entryを認め,re-entryのないことが画像上確認できた。

図3 症例2:急性大動脈解離Stanford A型(偽腔開存型,68歳,男性) ↓:entry,↑:flap

図3 症例2:急性大動脈解離Stanford A型(偽腔開存型,68歳,男性)
:entry,:flap

 

症例3(図4)は,70歳,男性,大動脈解離Stanford B型(偽腔開存型)の症例である。本症例はStanford B型ではあるが,解離腔が大動脈弓部に及び,血管径の急速な拡大により緊急手術を要するため,心電図同期CTAでの撮影が実施された。解離腔は左総頸動脈まで及んでいることがわかり,大動脈弓部全置換術が実施された。

図4 症例3:大動脈解離Stanford B型(偽腔開存型,70歳,男性) ↓:血栓

図4 症例3:大動脈解離Stanford B型(偽腔開存型,70歳,男性)
:血栓

 

おわりに

ワークステーションを用いた術前の血管構築や,臓器の長さ・体積の計測などは以前から行われてきた。今回は,大動脈解離の術前画像作成においてAZE VirtualPlaceの有用性を示した。術中は血管圧もなく,遠位弓部では出血により術者の視野も悪くなる。術前に解離のentryを正確に同定し,血管径の計測を行うことで,術中の効率向上に寄与できる。また,VEのような画像を作成することで,術前シミュレーションに役立てることができると考えている。

●参考文献
1)植田琢也 : 大動脈解離と類縁大動脈疾患─治療ストラテジーに直結する画像診断. 画像診断, 35, 439〜445, 2015.
2)Kaji, S., Nishigami, K., Akasaka, T., et al. : Prediction of progression or regression of type A aortic intramural hematoma by computed tomography. Circulation, 100(19 Suppl.), Ⅱ281〜286, 1999.
3)日本循環器学会 : 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告). 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改訂版).
www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_takamoto_h.pdf

【使用CT装置】
SOMATOM Definition AS,SOMATOM Definition Flash(シーメンス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace(AZE社製)

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