次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2017年3月号

No. 179 導入10年目を迎えたAZE VirtualPlace風神の使用経験

保田 英志(国家公務員共済組合連合会 横浜栄共済病院放射線技術科)

はじめに

当院では,2008年に心臓MRI解析を目的として「AZE VirtualPlace風神」(AZE社製:以下,風神)が導入された。当初はMRIでの解析に使用することを目的としていたが,その秀逸な操作性からCTイメージングでの画像処理においても活用するようになり,この2017年までにさまざまな3D画像処理を風神を利用して行ってきた。
風神には多種の優秀なオプションソフトウェアも存在するが,標準搭載されている機能についてもユーザーフレンドリーで高い操作性を持つ。近年,画像処理ワークステーションは自動解析が発展し,高いレベルでのオートメーション化が進んではいるが,低いコントラストしか得られない症例などにおいては,まだまだ標準的な機能でボリュームの切り貼りを行わなければならないケースも多い。そのような中で,導入から10年を経ても有効で,特に秀逸であると思われる標準機能を利用した画像処理について紹介したいと思う。

乳がん手術支援画像

当院では,乳がんの手術前に転移検索を目的とした造影CTを撮影しているが,このデータを利用し手術支援3D画像を構築している。その際は,乳腺と筋肉に埋もれた淡い腫瘍を描出する必要がある。この淡い腫瘍の描出にVR画像のカラーマップを当ててみることも可能ではあるが,もともとの濃度差が低いこともあり腫瘍の視認性に欠ける。そのため当院ではMIP画像を作成し,腫瘍の浸潤具合をより評価しやすいようにしている。当然,MPR画像などを用いた方がより詳細で容易であるが,目的が手術支援画像という枠組みとなることから,手術中に一目で観察可能な画像表示が重要であると考え,MIP表示による画像作成を行っている。

ボリューム抽出の方法

実際にMIP画像を作成する場合,骨や筋肉が腫瘍と重なるため,それぞれのボリュームを分ける必要がある。しかし,通称“骨抜き”と呼ばれるWLを上下させて対象ボリュームの選択消去や選択抽出などを繰り返す方法では,このような淡い造影効果のボリュームを分けることは難しい。特に,乳腺については筋肉と腫瘍のCT値が近接してしまうケースがあることや,乳房サイズが小さい場合には筋肉と腫瘍が距離的に近接することから,その切り分けが難しくなる。そのため,われわれは症例によってセミオート抽出法の“制御点モード”と呼ばれる標準機能を用いて作成を行っている(図1 a)。

秀逸な操作性の制御点モード

セミオート抽出法は,スライスごとにオペレータがフリーの形でボリュームを選択できる操作であるが,風神でのこの操作性を当院では非常に高く評価している。Adobe Photoshopなどの汎用イメージ編集ソフトウェアなどでもそうだが,マウス操作でフリーハンドに図形を描く場合,直線で図形を描出することは容易ではあるが,曲線を伴う描出の際は操作にかなりの慣れが必要であると考える。しかし,風神の制御点モードは,点をプロットすることにより描画する手法である。このプロット手法では,Microsoft PowerPointで描くようなイメージで曲線の描画が可能である。乳房はその構造上,曲線を描く部分が多く含まれるため,この手法による領域選択は非常に有効であると考えている(図1 b〜d)。
描画は各スライスすべてを描く必要はなく,数スライスを選択して描く。これは各スライス間でそれぞれに補間されるためである。また,プロットの失敗の際は右クリック一つでUNDO操作となるので,プロットミスも瞬時に元に戻すことができる。描いた後から修正が必要と判断された時には,プロット点の位置を個々に修正可能である。これらの手法が非常に有効なことから,幸いこの画像処理に関する作業は10分程度で処理することが可能となっている。

図1 セミオート抽出法の制御点モード

図1 セミオート抽出法の制御点モード
a:制御点モード選択
b:任意の位置からプロットを開始
c:数点のプロットを追加する。
d:滑らかな曲線を描くことができる。

 

明瞭な描出を可能にする乳腺MIP画像

症例1は浸潤性乳管がんの症例である。この症例は,複雑な構造のカラーマップのみを当てたVR画像(図2 a)でも視認できるが,MIP画像(図2 b)を用いると明瞭に描出される。

図2 症例1:浸潤性乳管がん

図2 症例1:浸潤性乳管がん
VR画像と比較し,MIP画像では腫瘍の輪郭が明瞭に描出される。

 

症例2も浸潤性乳管がんの症例であるが,こちらの症例では腫瘍の濃染が強くないためVR画像(図3 a)では認識できない。しかし,MIP画像(図3 b)を用いることにより一目で確認することが可能である。

図3 症例2:浸潤性乳管がん

図3 症例2:浸潤性乳管がん
VR画像では,周囲組織に埋もれてしまい淡い染まりが見にくいが,MIP画像では一目で認識可能である。

 

まとめ

以上,風神の標準機能を用いた画像処理の有効性について紹介した。今回はセミオート抽出法について紹介したが,このほかにもAZE VirtualPlaceには操作性の高い標準機能が備わっている。オートマチックな画像処理は,近年非常に高度化され,骨や血管,気管支といったところでは失敗も少なくなったが,やはり淡い濃度の描出は難しいところである。ビッグデータが活用されても,患者の体格や腫瘍の形などを考えると,それほどの画一的なパターン化はまだ難しいように思う。今後もこのような画像処理技術の必要性は高いと感じており,風神の操作性は10年目を迎えてもなお有効であると思われる。

【使用CT装置】
SOMATOM Definition AS+(シーメンス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace風神(AZE社製)

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