次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2016年9月号

No. 173 リージョングローイング機能を利用したAVMに対する簡易的feeder同定の試み

大屋 光司(医療法人翠清会 翠清会梶川病院検査部)

はじめに

脳動静脈奇形(以下,AVM)に対する治療は,外科的摘出,血管内治療,定位的放射線治療によって,あるいはこれらを組み合わせて複合的に行われている。AVMの部位や大きさ,症候や出血の有無などによって治療方針が検討されるが,現時点での治療方針としてSpetzler-Martin分類のgrade1〜3に対しては主に外科的摘出術,grade4,5では保存的治療が推奨されている。ただし,grade4,5であっても出血,動脈瘤の合併,症状が進行的に悪化する例は緊急手術となる場合があるため,AVMの構成要素である流入動脈(以下,feeder),異常血管塊(以下,nidus),流出静脈(以下,drainer)を事前に把握しておくことが重要である。
grade4,5のAVMの場合,それらの血管走行は複雑であり,特にその中からfeederを選定するには多くの時間を要する。
本稿では,AZE社製「AZE Virtual Place 風神 360」のリージョングローイング機能を用いて,短時間でfeeder同定が可能となったので紹介する。

feeder同定マルチレイヤー画像の作成方法

簡易的feeder同定マルチレイヤー画像の作成方法は,次のとおりである。
本症例では,シーメンス社製3T MRI装置「MAGNETOM Spectra」で撮像したMRA(3D-TOF)の元画像を用いた。
ワークステーション(以下,WS)のリージョングローイング機能(基準となるボクセルを画像上で指定し,そこから連続している部位を削除/復元する機能)を使用し,動脈側と静脈側から,それぞれ血管を抽出していき,色分けをした血管をマルチレイヤーに保存する。動脈(図1 赤)からは,nidusに入る直前で止め,静脈(図1 青)からは,逆にnidusを過ぎた辺りで止めるように抽出する。設定の先方検索数を増やすことにより,スライディングバーで抽出を停止した場所から時相を先方にも調整可能となる。
調整後,それぞれ保存した血管を,マルチレイヤー表示し重ね合わせ,色が重なり紫となった部分がfeederとなる可能性が非常に高いと考えた(図1)。

図1 簡易的feeder同定マルチレイヤー画像の作成方法

図1 簡易的feeder同定マルチレイヤー画像の作成方法

 

リージョングローイング機能には,血管モードと通常モードがあり,血管モードはもともとCTAの信号値をターゲットとして開発されているため,ほかのモダリティの元画像では,適切に血管信号全体を拾えない(図2)。そのため,元画像のウィンドウの影響を受ける通常モードを使用し,血管の信号を強調させるように濃度調整を適切に行った後,シード点を設定する工夫を行った。

図2 リージョングローイング機能のモード別,信号抽出例

図2 リージョングローイング機能のモード別,信号抽出例

 

症例提示

症例(30歳代,女性)は,全身性けいれんが出現し,救急搬送された。MRI検査を行い,右側頭部から頭頂葉皮質にかけての広範囲なAVMであると診断された(Spetzler-Martin分類:grade5)。
DSAなどで定期的に検査を行い,時間の経過に伴いAVMが変化していることがわかったが,その後,妊娠されたため,造影剤使用も放射線被ばくもないMRIでの定期検査へと変更した。全脳のMRA元画像を使用し,WSにて簡易的feeder同定マルチレイヤー画像を作成した。本症例では,右中大脳動脈(MCA)からのmain feederに加え,同側前大脳動脈(ACA),後大脳動脈(PCA)からのfeederも有し,皮質静脈(cortical vein)と脳底静脈(basal vein)ヘと流出していると視覚的にとらえることができ,診断の援助となった。ただし,VR画像は血管のボリュームが調整できるため,太さの変化は元画像の確認が必要となる。その場合,画像間演算を使用し,マルチレイヤーで重ねた2つの画像を積領域に設定して実行すると,重なったマスク領域(図3 黄)だけを抽出できる。元画像(図3 下)では緑に表示され,簡単に15本のfeederとなる血管を認識することが可能になった(図3)。

図3 画像間演算を使用し,重なったマスク領域だけを抽出

図3 画像間演算を使用し,重なったマスク領域だけを抽出

 

そのほか,3D撮像した構造画像とフュージョンし,事前に術前シミュレーション画像を作成しワークリスト保存しておけば,緊急手術となった場合でもすぐに対応可能となる(図4)。

図4 T1-SPACEを使用した術前シミュレーション画像

図4 T1-SPACEを使用した術前シミュレーション画像

 

まとめ

MRIによる画像診断に加えて,本稿で紹介した feeder同定マルチレイヤー画像を作成することにより,病変の理解を深め,元画像でもfeederの位置を簡易的に特定することが可能である。また,低侵襲で行うことができ,作成時間も短時間である。MRAだけでなく,CTA,3D-DSA元画像を使用しても作成可能であり,汎用性もある。図5に3D-DSA元画像を用いたVR画像を示す。このようにAZE VirtualPlaceのリージョングローイング機能により,動態情報ではなく,形態情報から血管を分離し,病変を視覚的にとらえることに成功した。今後,この手法の普及と,未破裂脳動脈瘤の流体解析のような形態情報から動態を推測する機能の追加が期待される。

図5 3D-DSA元画像を用いたVR画像(静脈奇形によるA-Vシャント)

図5 3D-DSA元画像を用いたVR画像
(静脈奇形によるA-Vシャント)

 

【使用MRI装置】
MAGNETOM Spectra(シーメンス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 風神 360(AZE社製)

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