次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2016年7月号

No. 171 AZE VirtualPlace隼  心臓解析パッケージによる心筋SPECT解析

工藤  崇(長崎大学原爆後障害医療研究所 原爆・ヒバクシャ医療部門アイソトープ診断治療学研究分野)

はじめに

心臓核医学では,画像の定性的な読影評価に加え,画像解析により得られる数値情報を用いた定量解析が行われる。なかでも心筋血流SPECTは,心電図同期データ収集およびquantitative gated SPECT(QGS)を代表とする解析ソフトウェアの登場・普及により,血流情報に加えて心機能情報を容易に取得することが可能となった。さらに最近では,サードパーティーの解析ソフトウェアが多く登場し,臨床現場にて虚血性心疾患の診断のみならず治療方針の決定,心事故発生リスクの推定,予後評価に広く活用されている。
本稿では,「AZE VirtualPlace隼 心臓解析パッケージ」(AZE社製)に含まれる解析ソフトウェア“Heart Risk View-F(以下,HRV-F)”“Heart Risk View-S(以下,HRV-S)”について紹介する。

AZE VirtualPlace隼 心臓解析パッケージの解析方法・機能

AZE VirtualPlace隼は,パーソナルコンピュータ上(Windows)で動作する核医学画像解析ソフトウェアである。心臓解析パッケージは,心電図同期心筋SPECTデータを解析するHRV-Fと,非同期SPECTデータを用いた各種解析や,J-ACCESS1)エビデンスを基に心事故リスク評価2)を算出するHRV-Sからなる。本ソフトウェアの主な機能を表1に示す。

表1 ソフトウェアの主な機能

表1 ソフトウェアの主な機能

 

HRV-F

HRV-Fは,心電図同期心筋SPECT画像を用いて心機能解析を行うソフトウェアである。既存のソフトウェアでは小心臓や心外高集積がある場合に自動輪郭抽出が困難な場合があるが,HRV-Fでは心筋内膜面および外膜面をそれぞれ抽出するアルゴリズムを採用することにより,輪郭抽出を高精度で実施することを可能としている(図1)。
データの解析では,同一患者の負荷時および安静時や治療前後など,異なる2つの時間点のデータを同時に解析表示することが可能であり,結果の比較評価が容易である。加えて,動画による3Dサーフェス表示は,任意の方向からの観察が可能で,壁運動評価に有用である(図2)。
HRV-Fで得られる心機能解析指標は,臨床で用いられる左室収縮機能・拡張機能などのさまざまな解析指標をほぼ網羅しており,日常診療で使用する指標を選択表示すること可能である。
HRV-Fのもう一つの特徴は,左室収縮開始時の位相(phase)を解析表示することが可能なことである。心位相解析は,左室心筋が1心周期のどのタイミングで収縮開始したかを解析する。解析された位相は色の違いや等高線の動き,位相のヒストグラムで表示したり,さまざまな数値パラメータとして評価することが可能である。心臓の収縮するタイミングがそろっていれば,色表示をしたphase polar mapでは色彩は均一となり,ヒストグラムは幅の狭いシングルピークに近づく。他方,収縮タイミングが均一でない場合には,ヒストグラムは幅広くなり,phase polar mapの色彩は不均一となり,さらに等高線表示の場合,血流polar mapに収縮開始した部位が等高線で表示されるので,トレーサー集積低下部位と収縮開始位相の差異を容易に評価できる(図3)。

図1 HRV-F自動輪郭抽出結果

図1 HRV-F自動輪郭抽出結果

 

図2 HRV-F解析結果:容量曲線と心機能指標値表示

図2 HRV-F解析結果:容量曲線と心機能指標値表示

 

図3 HRV-F Phase解析結果

図3 HRV-F Phase解析結果

 

HRV-S

HRV-Sは,非同期の心筋SPECT画像から作成されるpolar map画像を用いて各種解析を行うソフトウェアである。
HRV-Sでは,標準モデル心臓CTデータを用いた3D画像とSPECT画像の融合画像が表示可能で,心臓核医学の初学者や患者でも集積状態を容易に把握することができる。さらに,AZE VirtualPlace ver.3.5以上で,オプションのCT 細血管解析ソフトウェアを所有している場合,CTAの再解析なしで,パーソナルコンピュータ上で,患者CTAデータを読み込みSPECT画像と融合させる機能を持つ(図4)。本機能により,実際の患者CT画像との融合画像作成が容易に可能となり,臨床での活用が期待される。
また,201TlClの心筋洗い出し率(washout rate)の算出,異なる2核種の集積ミスマッチ,日本核医学会作成の日本人標準データベースと比較した集積低下領域とその重症度の解析表示が可能で,さまざまな指標を用いて虚血の程度を定量的に評価することができる。
加えて,最近臨床で用いられるようになってきたスコアリング機能も搭載している。HRV-Sは,負荷心筋血流SPECTでは負荷時合計集積低下スコア(summed stress score:SSS),安静時合計集積低下スコア(summed rest score:SRS),虚血心筋を表すSSSとSRSの差分(summed difference score:SDS)を算出することができ,さらに左室心筋に占める虚血心筋の割合を表す虚血心筋量(%ischemic)3)〜5)を自動で算出表示する(図5 左下)。HRV-Sのスコアリング方法は閾値法6)によるが,自動スコアリングでは読影医の視覚的スコア結果と乖離することもあるので,読影医による確認と必要に応じた修正が望ましい。
99mTc-tetrofosminデータを解析に使用した場合には,J-ACCESSデータベース1)に基づく被検者の3年間以内の心事故(心臓死,非致死的心筋梗塞,入院を要する重症心不全)の発生する確率2)を算出可能である(図5 右)。
このように,HRV-Sによる各種解析では,SSSや%ischemicのような心筋SPECTの定量的な情報を取得することが可能となり,定性的な虚血評価のみならず,治療方針決定や予後予測の参考となるさまざまな情報を,豊富な核医学の臨床エビデンスに参照して得ることが可能で,臨床現場での患者マネージメントに有用である。
上記の各種解析結果は,結果画面のほかにHRV-FやHRV-Sおのおのの解析結果を一画面にまとめたAll Viewなど,解析結果の自動コメントを記載した解析結果レポートの作成保存が可能である(図6)。
レポートや解析結果の各画面はDICOM形式で保存され,データを容易に送受信することができる。

図4 HRV-S:View-3D表示

図4 HRV-S:View-3D表示

 

図5 HRV-S:Risk解析結果

図5 HRV-S:Risk解析結果

 

図6 心臓解析パッケージ:解析結果レポート表示例

図6 心臓解析パッケージ:解析結果レポート表示例

 

臨床例

前壁心筋梗塞患者の解析結果を提示する。前壁から心尖部にかけて広範な集積低下があるが,HRV-Fでは良好に自動輪郭抽出し,負荷時および安静時の容量曲線,各種心機能指標のほか,左室心筋の三次元のシネ画像を得ることが可能であった。シネ表示することにより,前壁から心尖部の壁運動が低下していることが観察できる(図1,2)。またPhase解析では,集積低下領域に一致して,前壁から心尖部領域の収縮開始が遅れていることがわかる(図3)。
図4に,被検者の心臓CTAをAZE VirtualPlace隼で処理した画像とSPECTのHRV-S使用による三次元融合画像
を提示する。融合画像表示により,CTによる解剖学的な血管支配領域と,SPECTにより得られる機能的な集積低下領域の関係把握が明瞭で,左前下行枝の梗塞病変であることが容易に判断でき,患者や依頼医への説明に役立つ。
図5にスコア結果と日本人の心臓核医学J-ACCESSデータベースによる心事故発生確率を示す。この患者では負荷時および安静時のpolar mapよりfill-inが観察されず,集積低下は固定性欠損と判断できる。加えて,J-ACCESSに基づく心事故発生確率は6.2%と,同年代正常人と比較してリスクが非常に高い(7.7倍)ことを,グラフを用いて平易に説明できる。
HRV-FおよびHRV-Sでは多岐にわたる解析結果が得られるため,必要な情報を取捨選択することが必要となる。この解決策として,汎用される解析指標や解析結果を見やすくレイアウトしたレポートを作成出力することができる(図6)。解析結果下部に解析指標や解析結果についての自動コメントが表示され,必要な情報が見やすくまとめられている。HRV-FとHRV-Sのレポートを同時に供覧することにより,血流の解析指標と心機能の解析指標とを関連付けて理解することも容易に可能になる。また,患者や依頼医への説明にも有用である。

まとめ

AZE VirtualPlace隼 心臓解析パッケージはパーソナルコンピュータでデータ解析が可能な解析ソフトウェアであるが,phase analysisをはじめとする心機能解析,CT・SPECT融合画像,スコアリング,心事故発生リスク評価など最新の機能が搭載され,核医学解析ワークステーションと同等以上の解析を,場所を選ばずに手軽に実施できることが特長である。本ソフトウェアでは,HRV-SによるCT・SPECT融合画像,血流polar map,スコア結果および虚血心筋量という血流分布の情報に加えて,HRV-Fにより得られる壁運動情報や心機能指標,さらにJ-ACCESSに基づく心事故発生リスクという予後に関する情報を同時に取得することができ,血流と機能を関連付けて評価することが容易となり,核医学に馴染みのない依頼医やひいては患者やその家族でも容易に理解でき,臨床診断に資すると考えられる。

●参考文献
1)Nishimura, T., et al. : Prognostic study of risk stratification among Japanese patients with ischemic heart disease using gated myocardial perfusion SPECT ; J-ACCESS study. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 35・2, 319〜328, 2008.
2)Nakajima, K., et al. : Cardiac event risk in  Japanese subjects estimated using gated myocardial perfusion imaging, in conjunction with diabetes mellitus and chronic kidney disease. Circ. J., 76・1, 168〜175, 2012.
3)Hachamovitch, R., et al. : Comparison of the short-term survival benefit associated with revascularization compared with medical therapy in patients with no prior coronary artery disease undergoing stress myocardial perfusion single photon emission computed tomography. Circulation, 107・23, 2900〜2907, 2003.
4)Hachamovitch, R., et al. : Impact of ischemia and scar on the therapeutic benefit derived from myocardial revascularization vs. medical therapy among patients undergoing stress-rest myocardial perfusion scintigraphy. Eur. Heart. J., 32・8, 1012〜1024, 2011.
5)Moroi, M., et al. : Coronary revascularization does not decrease cardiac events in patients with stable ischemic heart disease but might do in those who showed moderate to severe ischemia. Int. J. Cardiol., 158・2, 246〜252, 2012.
6)Yoshinaga, K., et al. : Validation of automated quantitation of myocardial perfusion and fatty acid metabolism abnormalities on SPECT images. Circ. J., 75・9, 2187〜2195, 2011.

【使用SPECT装置】
e.cam signature(シーメンス社製)
【使用ソフトウェア】
AZE VirtualPlace隼(AZE社製)

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