次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2015年2月号

No. 154 AZE VirtualPlaceを用いた乳房再建術の術前評価─3D計測(体積表示)を使用した術前シミュレーション

奥中 雄策/鈴木 賢昭/田上 玲子/伊藤 静夏/平田  萌/山出 早紀/浜崎 風花(ベルランド総合病院放射線室)

はじめに

乳がんの手術術式には,乳房切除術と乳房部分切除術の二通りが行われている。両側の乳房は女性のシンボルであり,乳房切除術を行った場合,あるいは乳房部分切除を行った時でも切除量が多くなった場合など,乳房を大きく損なった際には女性の精神的・肉体的苦痛は計り知れないものとなり,QOLに大きな影響を及ぼすと考えられる。その乳房喪失感を解消する方法の一つとして,乳房再建術がある。
乳房再建術の方法には,人工物(インプラント)を使用する方法と,自分の組織(自家組織)を使用する方法があり,自家組織を用いた再建術の場合,再建する乳房の体積によって広背筋皮弁または腹直筋皮弁のいずれかを選択する。また,再建の時期によって,乳がん手術と同時に再建を行う一期再建,手術とは別に再建を行う二期再建を含めてさまざまな再建法がある。しかし,一期再建で自家組織を使用する場合,切除した乳腺組織の体積を予測して,再建に使用する自家組織がどれほど必要であるのかの評価を行う指標がなく,形成外科医の勘と経験によって行われているのが現状である。そこで,われわれは画像処理ワークステーション「AZE VirtualPlace」(AZE社製)を使用し,乳がんを診断する際に撮影した造影CT画像を用いてシミュレーションを行い,乳房再建を画像でサポートしようと考えた。

AZE VirtualPlaceによる解析方法

1.乳房の切除領域の抽出
Thin sliceで再構成した画像を選択し,3Dアプリケーションを起動する。まず,セミオート抽出ツールを使用し,部分切除する領域(今回の症例では乳房内上部,乳房外上部)をMPR画像上で設定する(図1)。さらに,必要であればボリューム編集ツールのカッターモードを使用し,3D画像上で乳房の切除領域を決定する(図2)。そして,3D計測ツールの体積表示を使用し,抽出した領域の体積を測定する(図3)。この値を乳房切除体積((1))とした。また,このレイヤーを保存した。

図1 乳房切除領域の設定

図1 乳房切除領域の設定

 

図2 乳房切除領域の調整

図2 乳房切除領域の調整
a,b:乳房切除領域の位置関係
c,d:乳房切除領域の抽出

 

図3 乳房切除領域の体積測定(測定値239.18mL)

図3 乳房切除領域の体積測定(測定値239.18mL)

 

2.再建に使用する自家組織の抽出
次に,皮弁として使用する広背筋を,乳房の切除領域抽出と同様の手順で抽出し(図4 a,b),体積を測定する(図4 c)。この値を広背筋皮弁体積((2))とした。また,このレイヤーも保存した。
さらに,広背筋を術中に取り出すための切開位置の設定では,3D計測ツールの直線計測を使用し,3D画像上に,できるだけ体表面に沿うように肋骨と平行に直線を引き,執刀医の指示にて長軸18cm,短軸7cmとした(図5)。そして,この直線が対角線となるひし形の領域を切開範囲として設定し,その領域に含まれる脂肪組織を抽出し(図6 a,b),体積を測定した(図6 c)。この値を脂肪組織体積((3))とした。また,このレイヤーも保存した。

図4 広背筋皮弁領域の設定

図4 広背筋皮弁領域の設定
a,b:広背筋皮弁領域の位置関係
c:広背筋皮弁領域の体積測定(測定値230.12mL)

 

図5 広背筋摘出のための切開位置の設定

図5 広背筋摘出のための切開位置の設定

 

図6 脂肪組織領域の設定

図6 脂肪組織領域の設定
a,b:脂肪組織領域の位置関係
c:脂肪組織領域の体積測定(測定値256.01mL)

 

3. 手術支援画像の作成
作成した3つのレイヤー((1)〜(3))を,マルチレイヤー表示を使用して表示することで,位置関係を視覚的に表現した(図7)。また,(1)=(2)+(3)であるならば,手術前後で乳房の体積は変化しないと仮定し,理想の乳房再建が可能となるように,画像に数値を添えて提供した。実際の手術では,(2)の体積は切開した時点で決定するので,あとどれくらい(3)を持ってくればよいのかということになる。画像上で位置関係と体積が事前にわかることは,これまで勘と経験で行われていた乳房再建術を視覚的かつ定量的に評価でき,手術の指標となるのではないかと考える。

図7 手術支援画像

図7 手術支援画像

 

実症例

今回の症例について,画像上で体積を測定した結果は,(1)239.18mL,(2)230.12mL,(3)256.01mLであり,これを参考に実際に切除された(1)の体積は,術中測定で235mLであった。そして,(2)と(3)の切除に対して,画像上の位置関係と体積を参考に乳房再建が行われ,手術を終えた医師からは,一つの指標をもって手術を行うことができたと感想をいただいた。

おわりに

乳房再建術の術前シミュレーションに対して,CT画像を利用し,AZE VirtualPlaceによる3D表示とともに3D計測(体積表示)を取り入れることは,視覚的に位置と形状を把握しつつ数値として体積を知ることができ,指標をもって手術を行うことが可能となり,術前シミュレーションの幅が広がると考える。しかし,当施設において,乳房再建術の際に術前シミュレーションを併用した症例は少なく,解析方法や術後の整容性との関係1)については評価できていないため,今後の課題と考える。

●参考文献
1)椎名伸允, 榊原雅裕, 三階貴史・他 : 3DCT画像上での乳房温存手術のバーチャルシュミレーションによる切除量と整容性の術前予測. 第22回日本乳癌学会学術総会プログラム抄録集, 251, 2014.

【使用CT装置】
Discovery CT750 HD FREEdom Edition(GE社製)
【使用インジェクタ】
Stellant D DualFlow(日本メドラッド社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace(AZE社製)

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