ShadeQuest/Unlimited × 神戸大学医学部附属病院
3省4ガイドラインをクリアし国立大学病院初のクラウドサービスを利用したPACSを運用─高い信頼性と標準規格への対応で,大量に発生する大学病院の画像データを柔軟かつ安全に管理

2014-1-1

横河医療ソリューションズ

PACS

クラウド


神戸大学医学部附属病院の「ShadeQuest/Unlimited」運用概念図

神戸大学医学部附属病院の
「ShadeQuest/Unlimited」運用概念図

横河医療ソリューションズ
http://www.yokogawa.com/jp-mis/

神戸大学医学部附属病院では,2013年7月から国立大学病院では初めてのクラウドサービスを導入した画像データの外部保存がスタートした。横河医療ソリューションズがNTT西日本,NTTスマートコネクト(NTT西日本グループ)と3社協業して,2012年3月から提供している医療機関向けクラウドサービス「ShadeQuest/Unlimited」である。同院では,導入にあたって院内の運用管理規定策定など体制づくりを含めた3省4ガイドラインへの対応を行い,クラウドを利用した画像データ管理を実現した。国立大学病院での“前例のない”構築を可能にしたクラウドサービスの運用について,放射線部の髙橋哲部長と医療技術部放射線部門の川光秀昭技師長に取材した。

髙橋 哲 部長

髙橋 哲 部長

川光秀昭 技師長

川光秀昭 技師長

 

■3省4ガイドラインの遵守が求められる外部保存

医療分野におけるクラウドサービスは,2010年2月に厚生労働省が通知した「『診療録等の保存を行う場所について』の一部改正について」によって,民間事業者による外部保存が可能になったことから,本格的なサービスの提供が始まった。なかでも,年々大容量化が進む画像データについて,セキュアなネットワークとデータセンターを利用することで外部保存を行うクラウドサービスが,PACSベンダーを中心に提供されている。また,2011年の東日本大震災以降,医療機関の事業継続性(business continuity planning:BCP)やバックアップの必要性への認識の高まりが,クラウドの利用を後押ししている。
一方で,医療機関が民間事業者に委託して診療データの外部保存を行う場合には,上記の通知の中で,医療機関やそれを受託する事業者は厚生労働省,経済産業省,総務省の3省が出している4つのガイドラインの遵守を徹底することが求められている。具体的には,(1) 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第4.1版(厚生労働省),(2) 医療情報を受託管理する情報処理事業者における安全管理ガイドライン(経済産業省),(3) ASP・SaaS事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン(総務省),(4) ASP・SaaSにおける情報セキュリティ対策ガイドライン(総務省)である(医療情報システムの安全管理に関するガイドラインは,2013年10月に第4.2版に改定された)。
クラウドサービスの導入では,医療機関には,委託先事業者の選定だけでなく,ガイドラインに則った院内の管理体制の構築や運用管理規定の整備が求められることになる。診療データを外部のサーバに保存するというクラウドの特性から,セキュリティや回線障害などトラブルへの懸念に加えて,安全管理体制の構築が導入を検討する医療機関のハードルとなっているのが現状だ。
このような状況の中で,国立大学病院として初めて,画像データの一部をクラウド上のサーバに保存する医用画像総合管理サービスの利用が,神戸大学医学部附属病院で2013年7月からスタートした。

■CT,MRIの検査増加で院内のサーバ容量が枯渇

神戸大学医学部附属病院は,病床数920床,1日の外来患者数は約2000人に上る。画像診断機器は,CTが320列のArea Detector CT(ADCT)をはじめ5台,MRIは1.5Tが3台,3Tが2台稼働している。同院では,ADCTが臨床で稼働した2011年頃から画像の発生量が増加し,2013年2月にDual Source CT(DSCT)が導入されたことで急増した。また,MRIも3Tへのリプレイスが進んでおり,近く3Tが3台体制になるなど,画像診断機器の整備が続いている。検査件数はCTが年間3万3000件,MRIが年間1万4000件に上る(データ量の図参照)。放射線部における画像検査の状況について髙橋部長は,「モダリティの高機能化に伴って画像容量が増えるのと同時に,診断のためにさまざまな撮影方法を駆使した検査が行われるようになったことも画像発生数を押し上げています。特に,この2〜3年,画像の発生件数が指数関数的に増加する状況となっています」と説明する。
こういった状況の中で,現場で課題になっていたのが画像サーバの容量の問題である。画像発生数の急増で,サーバ容量が逼迫し,毎年新たに保存用のハードウエアを追加する状況が続いていたと川光技師長は言う。
「画像の発生量を予測してサーバ容量を準備しているのですが,近年の伸びは予想を上回っています。年間の発生画像容量は,2〜3年前で10TB,最近は15TBです。この数年は,毎年ストレージサーバを追加してきましたが,そのための予算取りや設置場所の確保,追加されたハードウエアの管理などが問題になっていました。ハードの購入までのタイムラグがあると,
一時的にデータをディスクやテープに移動するなど,やりくりしているような状態でした。2013年は,翌2014年1月の病院情報システムのリニューアル時期とも重なるため,ハードウエアの増設という無駄を少なくしたいという思惑もありました」

神戸大学医学部附属病院における画像データ容量の推移

神戸大学医学部附属病院における画像データ容量の推移

 

■NTT西日本グループと提携したクラウドサービス

同院では,画像情報システムに関しては,2002年から放射線部門システムとして横河医療ソリューションズのPACSを導入し,読影業務に利用してきた。川光技師長は,画像データのクラウドサービス導入に至った経緯を次のように説明する。
「以前から,管理の負担,コスト,院内のスペースの問題から,画像サーバの管理は院内で行うのではなく,クラウドが利用できないかと考えていました。当院のPACSベンダーである横河医療ソリューションズからクラウドサービス提供のアナウンスがあって,すぐに導入を検討しました。きっかけは,院内のサーバ容量逼迫の解消でしたが,コスト的な面を含め,安全性や運用性をトータルに判断してクラウドサービスの導入を決定しました」
横河医療ソリューションズは,NTT西日本グループと協業して,2012年3月からクラウド型医用画像総合管理サービス「ShadeQuest/Unlimited」の提供を開始した。ShadeQuest/Unlimitedの特徴は,PACSの構築で多くの導入実績を持つ横河医療ソリューションズの技術およびノウハウと,NTT西日本グループが提供する信頼性の高いネットワーク・データセンター基盤によって,付加価値の高いクラウドサービスを提供できることだと言える。横河医療ソリューションズでは,医療クラウドサービス提供の第1ステップとして,医療機関内の画像サーバのデータをクラウドで安全,確実に保管する“医用画像保管サービス”から提供を開始した。次のステップとしては,ASP・SaaS化した読影システムや画像管理サービスなどで,遠隔読影や高度な治療施設間の連携などをサポートするサービスを想定し,さらにその先には,地域医療連携やEHR(Electric Health Record)のような広範な情報共有サービスの提供も視野に入れている(概要図参照)。

横河医療ソリューションズが提供するクラウド型医用画像総合管理「ShadeQuest/Unlimited」概要図横河医療ソリューションズが提供するクラウド型医用画像総合管理「ShadeQuest/Unlimited」概要図

横河医療ソリューションズが提供するクラウド型医用画像総合管理「ShadeQuest/Unlimited」概要図

 

■放射線部内の体制づくりや運用管理規定を策定

同院で,クラウド導入の検討が始まったのが2012年8月。PACSの画像サーバの追加容量をクラウドで運用することを決定し,実際の導入作業に着手した。川光技師長は,「国立大学病院としては前例がないということで,診療データを安全に外部保存するために病院内の執行部会議の了承と同時に,大学本部のセキュリティ委員会の認証を得る必要がありました。そこで,まず,外部保存のためのガイドラインに対応するべく,受託事業者である横河医療ソリューションズと協力して組織作りや運用管理規定などの作成を行い,クラウドでの運用体制づくりを進めました」と説明する。
導入にあたっては,放射線部の髙橋部長を長として,川光技師長らを中心とする運用管理体制を組織し,横河医療ソリューションズ,NTT西日本グループと協力して,3省4ガイドラインに沿った体制づくりを行った。ガイドラインへの対応は,医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第4.1版が基本となるが,各ガイドラインを精査して,より詳細な条件があればそれを採用するなど,整合性をとっていく必要がある。それぞれのガイドラインには重複する項目もあり,一番厳しい条件にあわせるように項目を整理し検討を行った。ガイドラインでは,受託事業者側の物理的・技術的な安全管理だけでなく,利用する医療機関側の運用管理規定や組織的な安全管理体制についてのチェックが必要で,事業者側と医療機関側で項目を切り分け,対応が必要な部分を整理しながらトータルで検証していった。
髙橋部長は放射線部側の対応として,「日々の安全な運用管理を行うことはもちろんですが,情報漏洩やハードウエアの故障などトラブル時の責任体制や,事業者側との原因の切り分けなど,運用を決めて明文化しました。これまでも体制としてはありましたが,しっかりと明文化することで外部への説明責任を果たすことになります」と述べる。
2013年2月の大学本部のセキュリティ委員会で,これらの体制について説明を行い,認証を得て7月からのクラウド利用へと至った。髙橋部長は,「ガイドラインへの対応は導入のハードルになると言われますが,安心して導入を行うためのチェックリストとも言えます。今回は,画像システムと通信技術で実績のあるシステムがベースになっているだけでなく,導入時のガイドラインへの対応についてもサポートしていただいたことで,院内や学内の厳しいチェックをクリアすることができました」と言う。

放射線部における読影の様子。読影系のシステムには「ShadeQuest」シリーズを利用。

放射線部における読影の様子。読影系のシステムには「ShadeQuest」シリーズを利用。

院内のPACSサーバ

院内のPACSサーバ

 

■クラウドを意識させないスピードと使い勝手

同院では,院内の実効容量60TBの画像サーバの追加として,クラウド(NTTスマートコネクト提供)に15TBを契約して運用をスタートした。運用としては,新しい画像は院内のサーバで管理し,過去画像をクラウド側に保管することを原則とする。ShadeQuest/Unlimitedでは,NTT西日本グループのデータセンターを利用し,通信にはフレッツVPNワイドを使用する(神戸大クラウド運用図参照)。利用形態としては,月単位の従量課金制となっている。
クラウドサービス導入前の懸念として,画像表示のスピードがあったと髙橋部長は言う。「読影では,病変の変化を見逃さないために比較読影を行うことを基本としています。病変の変化は1つ前より過去に遡るほど大きくなりますので,読影の際には過去の画像データが欠かせません。普段から,サーバが足りなくなるほどの大容量の画像を用いて読影を行っていますので,クラウドに保存されたデータの表示が遅くなることは,読影業務にとってボトルネックになると心配していました。実際に導入後は,画像データが院内にあるのか,クラウドにあるのかはまったくわかりません。放射線部のスタッフには,一部の画像サーバを外部に出していることは伝えてありますが,従来とまったく同じ環境ですので,日常の業務の中でクラウドを意識することはないですね」と,クラウドの利用環境について評価している。
国立大学病院として,初めてのクラウドサービス導入が可能になった理由について川光技師長は,「既設の画像サーバの一部のデータをクラウドで外部保存するという方法が,組織内の理解を比較的得やすかったのだと思います。新しいシステムをクラウドでゼロから運用することはハードルが高かったと思いますが,サーバ容量の不足という切迫した理由があったことと,画像の保存先がクラウドに変わるだけという構成で,運用を大きく変える必要もなく,安全管理上の課題などもクリアしやすくなりました。コストについても,初期投資費用はかかりますが,ストレージ用のハードウエアを購入するのと大きな差がないこと,またクラウドでは,将来的に利用規模が増えることで容量単価の低減が期待できることなども,契約がスムーズに進んだ理由です」と説明する。
髙橋部長は,「外部委託する事業者の物理的な安全性や技術的な管理については,項目としてチェックはしますが検証はできませんので,後は委託する事業者を信頼するしかありません。その意味では,当院のPACS構築での長い実績と信頼関係のある横河医療ソリューションズと,通信大手であるNTT西日本グループとの提携という安心感は大きかったですね」と述べる。

神戸大学医学部附属病院の「ShadeQuest/Unlimited」運用概念図

神戸大学医学部附属病院の「ShadeQuest/Unlimited」運用概念図

 

■HISのリニューアルでさらなるクラウド利用へ

同院では,2014年1月に病院情報システムがリプレイスされる予定だ。電子カルテシステムのベンダーが変更されるのをはじめ,ネットワーク配線などインフラ部分も含めて見直される大がかりなリニューアルとなる。画像情報システムは,これまで放射線部内と院内配信では別システムで運用されていたが,これを一本化して,横河医療ソリューションズの「ShadeQuest」シリーズを中心とした一連のPACSシステムが導入される。新しいPACS構築のコンセプトについて川光技師長は,「できるだけカスタマイズをしないで,標準的なシステムを導入します。新システムの導入を機に院内のワークフローを見直し,運用の非効率的な部分を変えていくことが1つのねらいです。また,標準的なシステムを採用することで,PACSのソフトウエアを常に最新バージョンにアップデートできるようにしたいと考えました。従来は当院の運用にあわせてカスタマイズしていたため,それが不可能でした。サーバがクラウドによって物理的な制限から解放されたように,今後はソフトウエアについても同じように運用することがもう1つのねらいです」と述べる。
将来的には,PACSサーバについては次のシステム更新の5年後をメドに,すべてをクラウドに移行したいと,川光技師長は今後の方針を語る。さらに,川光技師長は,すべてがクラウドになって初めて,院内の運用や技師の役割が変わってくると期待する。
「院内から物理的なサーバがなくなることで,空いたスペースを他の用途に有効に使えますし,診療放射線技師は保守や管理の業務から解放されます。放射線部門では2013年に3Dラボというバーチャルな組織を立ち上げました。診療科からの3D画像作成などの依頼に対応していますが,技師の検査や画像に対する専門的な知識を生かして,より多くの診療科に3D画像を提供していきたいと考えています。クラウドの利用により,技師の能力をさらに発揮できる体制に変えていけるのではと期待しています」
今後の課題としては,物理的な制限がないクラウドの利用が可能になる一方で,画像の保存期限やアクティブ/ノンアクティブの画像管理などの運用を検討する必要があると髙橋部長は言う。「クラウドがあるからこそ,画像の保存期限やデータ管理など運用規定を決めていくことが必要です。自分たちの業務の目的や仕事の仕方をもう一度見直すことが求められると思います」。川光技師長は,「他施設でもデジタルデータの保存期間などの運用にはまだ明確な規定はないようですので,われわれがひとつのモデルケースとなるように今後検討していきたいと考えています」と述べる。
髙橋部長は,クラウド利用の今後の方向性について,「将来的には院内だけでなく,地域の医療機関と連携して画像データを共有できるようにすることが最終的な目標です。院内ではなくクラウドにデータが出ることで,多くの施設からの接続が可能になり,また,標準規格に基づいたデータによって,よりオープンな活用が可能になっていくのではと期待しています」と語る。
デジタル化によって増え続ける画像や診療記録などの医療情報をどのように管理,運用するか。国立大学病院でのクラウドサービス利用の取り組みは,医療機関にとってのひとつの指針となるに違いない。

(2013年11月1日取材)

 

 

 

 

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