2012年4月に一般社団法人に移行した日本画像医療システム工業会(JIRA)。6月には,東芝メディカルシステムズ(株)相談役である小松研一氏が新会長に就任し,新たな体制でスタートしました。東日本大震災で落ち込んだ国内市場も,今春の診療報酬改定などにより回復基調にありますが,国際市場を含め画像医療システムを取り巻く環境は変化しており,176の会員企業を抱えるJIRAの存在は,今後ますます重要になります。今回は,小松新会長に新生JIRAの舵取りについて,インタビューしました。
●新会長としての抱負をお聞かせください。
まず,加藤久豊前会長に感謝申し上げます。加藤前会長の任期中は,リーマンショックが起こるなど,画像医療システム産業を取り巻く環境が非常に厳しい状況でした。こうした中で,加藤前会長は,JIRAを率いて,2012年4月の一般社団法人化に尽力されました。
さて,JIRA会長として,私は3つの視点から取り組みたいと考えています。
1つめは,会員企業の意見に耳を傾け,行政への提言や学会との連携を強化していくことです。JIRAは現在,176の会員企業が所属していますが,その7割は売上高が3億円以下のいわゆる中小企業で,残りの3割はCTやMRIなどの大型の機器を扱い,国際競争力もある大企業です。このように,事業規模も形態も異なる企業が集まっているので,当然,個々の企業の求めるものは違います。私としては,各社の要望に耳を傾け,企業単独では対応できないような行政への提言や,学会・他団体との連携を,JIRAの立場から取り組んでいきたいと考えています。
2つめは,グローバル化の推進です。会員企業は中小企業が多いこともあり,事業基盤を日本国内に置く企業がほとんどですが,現在では,日本国内の市場であっても,海外の経済変動に大きく左右されるようになっています。それだけにグローバルな視点に立って,世界全体の市場の中で,どのように展開していくべきか,会員企業に発信していきたいと考えています。JIRAは,2011年に米国の電気機器製造業者協会医用画像工学関連機器事業部会(NEMA-MITA),欧州の放射線医用電子機器産業連合会(COCIR)とともに,画像診断,放射線治療,ヘルスケアIT業界の世界唯一の組織である国際画像診断・医療IT・放射線治療産業連合会(DITTA)を発足しました。DITTAでは,WHOや国際的な法規制の整合性を検討するIMDRF(International Medical Device Regulators Forum)などに対して,画像診断機器などの国際規制についての共同提案を行うといった活動をしていきます。JIRAでは,今後もDITTAを通じて,国際的な産業振興に取り組んでいきます。
3つめは,JIRAの活動基盤の強化を進めたいと考えています。今年4月の一般社団法人移行により,今後は社会からの期待も大きくなると思います。JIRAとしては,その期待に応えるためにも,基盤を固めていくことが大事です。
●2012年度の診療報酬改定がありましたが,画像医療システム産業には,どのような影響があるとお考えですか。
JIRAでは,行政に対してこれまでも診療報酬に関する提言を行ってきましたが,それが次第に診療報酬に反映されるようになってきました。JIRAがこれまで主張してきたことは,「安全保証」「精度保証」「運用保証」という3保証に基づいた評価をするということです(図1)。今回の改定では,それが少しずつですが,認められています。
例えば,「安全保証」について,2012年度の改定では,CTとMRIの保守管理の評価が見直され,4列以上のマルチスライスCT,1.5T以上のMRIの施設基準の届け出にあたり,安全管理責任者の氏名,CT・MRI装置,造影剤注入装置の保守管理計画を提出することが必要となりました。また,「運用保証」としては,従来の冠動脈CT,心臓MRI,外傷全身CTに加え,下部消化管のCT撮影に対しても加算が新設されました。このような加算の新設や増点が行われており,JIRAとしては2012年度の改定を高く評価しています。
図1 画像医療システムの3保証
出典:「Data Book 図表で見る画像医療システム産業 2012」
●今回の診療報酬改定で課題があればお聞かせください。
上述した3保証に対する評価は,さらに徹底してほしいと思います。例えば,JIRAでは,これまで安全保証について,「保守維持管理コスト」の明確化・明文化,「医療機器安全管理料1」の適用拡大を求めてきました。これはJIRAが行っている調査で,放射線部門の特定保守管理医療機器について,医療機関での稼働年数が伸びる傾向にあるにもかかわらず,保守点検実施率が低いためです。保守点検実施率の低さは安全管理上問題であり,今後この数字を上げていくためにも,保守維持管理コストについて,診療報酬の通則や通知文書で示し,医療機関の意識付けを図っていく必要があります。
また,「医療機器安全管理料1」は,現在一部のME機器だけが対象となっています。保守点検実施率を向上させる観点からも,JIRAは造影剤注入器などの放射線関連機器の追加や施設要件への記載を求めています。
●今後,市場にも診療報酬改定の影響が出てくると思いますが,現在の国内市場の状況はいかがでしょうか
2011年度は東日本大震災の影響があり,第1,第2四半期の市場はかなり落ち込み,対前年比90%程度でした。その後需要が回復して,最終的に通年では,ほぼ前年並みという結果となりました。
一方で,グローバルな視点から国内市場を見ると,画像医療システムの国内市場は約3500億円であり,その70%近くを国内企業が占めています。また,国内生産高約4000億円の半分程度が輸出に回っており,輸出比率が高い状況にあります。日本企業の国際競争力が非常に高いことがわかります。これはJIRAの会員企業各社の企業努力の結果だと考えています。しかしながら,医療機器全体では,輸入超過となっています。特に,カテーテルやペースメーカーなどの治療機器や治療器具は,これまで国内市場の約70%を輸入に頼っていましたし,国内生産の20%程度しか,輸出できていません。この数字を見るかぎり,これからは医療機器全体での国際競争力をつけていく必要があります。そのためにも,今後は画像医療システムと治療機器を融合させるような技術開発により,医療機器の輸入超過という状況を改善していくことが重要であり,さらにはそれによって国内企業の事業拡大を図れるのではないかと考えています。
●海外市場の状況はいかがでしょうか。
会員企業の事業内容によっても異なりますが,国内市場,欧米市場,アジアなどの新興国市場がそれぞれ1/3ずつの売り上げ比率になっているようです。特に,新興国市場は依然として成長を続けています。中国市場は,一時期停滞していたときもあったのですが,現在は医療政策により地方にも予算が配分されており,画像医療システムの需要は高まっています。また,アジア諸国,中東諸国も国策として医療インフラの整備を進めており,市場が拡大しています。JIRAの会員企業にとってもビジネスチャンスが広がっていると言えます。
わが国では,経済産業省が中心となって,医療の国際化のプロジェクトを進めていますが,JIRAとしても,こうした取り組みと連携しながら,会員企業の海外進出を支援していきたいと考えています。現在の支援策としては,中国などで行われる展示会に出展して,会員企業のPRを行ったり,JIRAの企業振興委員会で,海外進出をフォローしています。
●国際化を進める上で重要となる標準化や国際整合への取り組みについて,お聞かせください。
標準化,国際整合は,JIRAにとってきわめて重要なテーマだと思っています。企業の壁を越えて,お客様にご迷惑をおかけしないためにも,国内はもとより,海外との規格の標準化を進めていくことは,JIRAの活動の根幹にあるものです。特に,グローバル化を進める上でも,ますます重要になってくると思います。
特にJIRAでは,国際電気標準会議(IEC)の規格に整合させたJIS規格の基盤整備や国際規格への提案を行うといった活動をしており,今後も継続して,国際的な標準化活動を進めていきます。
●2012年6月に政府の医療イノベーション会議が「医療イノベーション5か年戦略(以下,新5か年戦略)」をとりまとめましたが,どのようにお考えですか。
JIRAとしては,これまでのヒヤリングやミーティングを通じて行政に提言してきており,それが新5か年戦略にも反映されています。今後この戦略に基づいた施策や予算措置がとられることは,われわれにとって,非常に大きな意味があります。
例えば,新5か年戦略の中には,医療機器の審査の迅速化を進めることを言及していますが,JIRAでは,これまでも行政に対して,審査のあり方について提言してきました。医療機器と医薬品は,その開発から製品化までの流れが大きく異なっており,医薬品は一度製品化されてしまえば,それがずっと使用され続けますが,医療機器は一度認可を受けても,日進月歩で改良が行われ,その時々の医療ニーズに合った製品へと切り替えられていきます。そのスピードは非常に速いので,審査も迅速化する必要があります。また,審査を行う担当者も,医薬品の場合よりも幅広い知識が求められます。新5か年戦略では,医薬品と医療機器の審査を明確に区分するとしているので,われわれとしては非常に期待しています。
さらに,新5か年戦略では,ソフトウエアの単独医療機器化についても言及していますが,これもJIRAは長年主張してきました。現状,ソフトウエアを開発してもそれは医療機器ではなく,ハードウエアに組み込まれた段階で医療機器となります。これでは,ソフトウエアの開発・改良を進める上で非効率であり,単独で医療機器として,開発・改良をしていけるようにしたいと,われわれは考えてきました。また,海外では,韓国や中国などほとんどの国で,ソフトウエア単独で医療機器として扱われています。今後,JIRAの会員企業が海外で展開することを考えた上でも,単独医療機器化は非常に良いことです。
このように,JIRAとしては,新5か年戦略に基づいた施策に積極的にかかわり,会員企業の事業拡大を図っていければよいと考えています。そして,会員企業にもこれをビジネスチャンスととらえてほしいと思います。
●176の会員企業に望むことは何でしょうか。
JIRAが今年4月に一般社団法人化したことは大きな節目であり,これを機にさらに事業を活性化していく必要があると思っています。特に,中小規模の企業の海外進出を支援していくつもりです。今後,日本国内市場だけでは,飛躍的なビジネスの伸長はあまり期待できません。一方で,経済産業省が医療の国際化を推進している中で,いまは大きなビジネスチャンスが到来していると思います。日本の医療技術は,世界的に見ても非常に高いレベルにあります。このすばらしい日本の技術を海外でも認めてもらい,ビジネスとして展開することが重要です。海外進出は,中小企業が単独で行うには難しい面もあります。ですから,関連する製品やサービスを提供する企業と連携するなどして,積極的に攻めの姿勢で取り組んでほしいと思います。
●インナビネットの読者に向けてのメッセージをお願いします。
先ほど言ったとおり,日本の医療技術のレベルは,世界的に見ても非常にすばらしいです。医師や診療放射線技師,看護師など医療にかかわる方々が高いレベルにあり,その方々の高い要求が,医療機器の開発につながるという「正の循環」が成り立っています。これは世界でもあまり類を見ないことであり,大変良いことだと思います。この優れた「正の循環」をさらに進め,日本だけでなく,全世界65億人のQOLを充実させていくことが大事です。まだ,世界には十分な医療を受けられない人たちがたくさんいます。これらの人たちのために,JIRAが果たすべき使命は大きいと考えます。そして,その使命を果たすためにも,学会などと「知の連携」を積極的に図りつつ,「正の循環」を進めていきたいです。
(2012年7月6日(金)取材:文責inNavi.NET)
◎略歴 1949年7月9日生まれ。 73年北海道大学工学部卒業。78年同大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程修了後,東京芝浦電気株式会社(現・株式会社東芝)に入社。 80年に同医用機器事業部医用機器技術研究所,2000年株式会社東芝医用システム社統括技師長兼経営変革統括責任者を経て,2003年に東芝メディカルシステムズ株式会社取締役上席常務,2006年に同取締役専務,2008年に同代表取締役社長となる。その後2010年に同相談役,株式会社東芝顧問。JIRAでは2010年9月に副会長となり,2012年6月から会長を務める。 |