医療分野のIT化をさらに進めるためには,技術革新が必要です。現在,在宅医療や介護の現場では,タブレット端末が利用され始めていますが,まだ操作性も機能も不十分だと思います。例えば高齢のホームヘルパーの方でも使いやすい,患者さんのベッドサイドにある連絡ノートと同じ感覚で使えるデバイスや,薬の飲み忘れをアラートで知らせたり,自動的に行動記録が入力されるような見守りシステムといったものが,現場では期待されています。
加えて,集められた情報をデータベース化し,二次利用できるようにすることも大事です。例えば,自動入力された認知症の患者さんの行動記録を医師が分析することで,アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症のいずれかの鑑別が可能になります。また,多数の症例のデータが集積されれば,新薬やサプリメント,食品などの開発にもつなげることができます。
だからこそ,情報を二次利用するための制度を含めた環境を整備しなければいけません。個人情報を保護しつつ,安全に利用できれば,新しいビジネスの創出にもつながり,データベース化の費用を賄うことも可能になります。また,データベースの活用は,無駄な医療費の削減にもつなげられます。韓国では,レセプト情報を基にナショナルデータベースを構築し,医療の質を計測して,その結果が高い医療機関にインセンティブを与えるようにしています。こうしたP4P(Pay for Performance)は,欧米でも進んでおり,医療の質の向上に役立てられています。ですから,データベース化は,医療の質の観点からも必要なことだと言えます。
データベースの活用は,慢性疾患の増加によって近年注目されるようになってきた疾病管理にも役立てることができます。疾病管理とは,慢性疾患の患者さんに対する服薬などによる継続的な管理により,合併症の発症を予防するというもので,欧米各国で取り組まれています。疾病管理を行うことで,製薬企業は確実に薬剤が消費されるというメリットがありますが,さらに合併症を予防することが入院や救急外来の患者数を減らすことにつながり,医療費を節減できます。一方で,医療機関にとっては,疾病管理にITを活用して,病院の専門医と開業医が情報を共有しながら連携することで,日常の管理は開業医が行い,専門的な診療は病院で行うという機能分化に結びつきます。これにより,病院は効率的に高度な診療を行え,診療所は確実に患者さんを確保するという,Win-Winの関係を築くことも可能になるのです。疾病管理の仕組みができるならば,データベース基盤や情報連携のためのIT化の費用負担についても,企業や保険者からの理解を得られやすいのではないでしょうか。
このように,医学のためにも産業のためにも,情報基盤となるデータベースを整備することは重要です。いまこそ,利用のための制度を整え,積極的に活用していくことが求められているのです。
(2011年12月20日(火)取材:文責inNavi.NET) |