電子カルテやPACSなどの医療情報システムを導入するにあたり,「標準規格に対応したシステムであるかどうか」が選定のひとつの基準として挙げられる。つまり,HL7やDICOMといった国際的標準規格を適用しているかどうかだが,一口に「標準規格」と言っても,実際には対応する製品のすべてが同じ規格を実装しているわけではない。現状では,各ベンダーがそれぞれの規格について検討し,市場の要求を踏まえて規格の一部を各製品に実装している。また,規格自体にもオプションがあり,必ずしもすべての要件を満たすものではない。その結果,院内の情報システムをマルチベンダーで構築しようとした場合,標準規格を適用した製品同士にもかかわらず情報交換ができず,相互接続を可能にするために莫大な費用と膨大な労力が必要になるケースも多い。また,医療連携では,他施設に依頼して行った検査画像を,自施設のPACSに取り込むことも難しい。
では,どうすればムダなお金と手間をかけずに,マルチベンダーによるシステム構築や,スムーズな医療連携を実現することができるのだろうか。実は,この問題を解決するための取り組みが「IHE」(Integrating the Healthcare Enterprise:医療連携のための情報統合化プロジェクト)である。多くの医療関係者がよく耳にしていると思われるが,では,IHEとは一体何なのか,と言われると,よくわからないというのが本音ではないだろうか。
そこで本誌では,「IHE超入門ガイド」という取材報告シリーズを企画した。IHEの導入を検討中,もしくはIHEに興味を持っている先生方と一緒に,IHEによるシステム構築を実現している施設を訪問し,ざっくばらんに質問を投げかけるFAQを通して,IHEへの理解を深めることをねらいとしている。
このシリーズが,IHEが認知から実装へと進むために役立つことを願っている。
IHEって何? - その歴史と現状
IHEは1999年,北米放射線学会(RSNA)と医療情報・管理システム会議(HIMSS)が中心となってスタートした。
2004年には米国心臓病学会(ACC)も加わり,さらにはアジアやヨーロッパにも支部ができるなど,国際的なひろがりを見せている。日本では,日本医学放射線学会(JRS),日本放射線技術学会(JRST),日本画像医療システム工業会(JIRA)が中心となって2000年に「IHE-Jプロジェクト」がスタートし,2001年からは経済産業省の補助金を受け本格的な活動が始まった。現在は上記3団体に加えて,日本医療情報学会(JAMI),医療情報システム開発センター(MEDIS-DC),保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)の6団体で構成されている。
そもそも,IHEは「規格」ではない。IHEとは,「マルチベンダーによる医療情報システムをスムーズに構築するための,標準規格を用いた製品開発におけるガイドライン」を示すための取り組みである。つまり,「IHEに準拠した製品を作る際には,HL7はこんなふうに,DICOMはこんなふうに使いましょう」という技術的な仕様書を作成し,仕様書に則った製品開発を行うよう各ベンダーに働きかけることが基本的なねらいである。そして,システムや規格の統合に対するベンダーとユーザーの間の共通認識をめざすものだ。
IHEでは,この仕様書を「テクニカルフレームワーク」と呼び,この内容に従って開発された製品は,IHEに準拠した製品ということになる。しかし,標準規格のどの部分を必要とするかは各医療機関や部門によって異なるため,まずは典型的な医療業務ワークフローを定義し,そのワークフローに必要な標準規格の使い方を決定する。このワークフローを,IHEでは「統合プロファイル(Integration Profile)」と呼ぶ。統合プロファイルはいわば,IHEによるシステム構築を実現するためのシナリオであり,医療機関は,現在定義されている統合プロファイル(放射線分野では13,検討中も含めて他の分野も合わせると50以上)の中から必要とするものを1つ,もしくは複数組み合わせ,どのようなシステムにするかを組み立てる。統合プロファイルには,仕様書であるテクニカルフレームワークが用意されているため,テクニカルフレームワークをベンダーに示せば,IHEに準拠した製品を統合プロファイルで想定したとおりの形に構築し,運用することができる。つまり,統合プロファイルとテクニカルフレームワークを医療機関とベンダーとの共通言語とすることで,IHEをスムーズに導入することが可能なのである。
ちなみに,医療機関におけるワークフローは,世界共通の部分と,その国の事情に合わせる部分があるため,日本では活動の主体であるIHE-J委員会が,テクニカルフレームワークや統合プロファイルなどについて,日本により即したガイドラインとなるよう検討を重ねている。IHE-J委員会の具体的な取り組みは,下記のホームページで確認することができる。 |