富士フイルムと静岡がんセンターは,医師の画像診断をサポートする世界初の「類似症例検索システム」を共同開発し,4月10日に都内で記者説明会を開催した。
類似症例検索システムは,富士フイルムの“顔認識”などの高度な画像処理技術を応用して,肺がんのCT画像に対して画像パターンを検索し類似症例を提示して読影をサポートする。システムの開発は,富士フイルムの人工知能の技術と静岡がんセンターの豊富な症例データベースの組み合わせによって実現した。
挨拶した富士フイルムの取締役常務執行役員メディカルシステム事業部長の玉井光一氏は,PACSや地域医療連携などのメディカルITネットワークの事業展開を概説し,PACSではSYNAPSEが国内市場でトップシェア(32%)を持つが,画像診断の高性能化と普及によって検査数が増大しており,診断業務をサポートするシステムが求められているとした。玉井氏は,この課題に対応するため,ファルマバレープロジェクトの下にさまざまな医薬品・医療機器の開発を展開している,静岡がんセンターと共同で画像診断をサポートする新しいシステムを開発したと述べた。
続いて,静岡がんセンター総長の山口 建氏が講演し,「ファルマバレープロジェクトの取り組みと共同研究の意義」を説明した。静岡県では,2002年の同センターのオープンから産学官が協働した医療健康産業の拠点作りをめざすファルマバレープロジェクトを展開しており,2011年12月には「ふじのくに先端医療総合特区」が地域活性化総合特区にも指定された。山口氏は,医療機器の開発には企業と医療機関が連携した“二重らせん型開発”が不可欠であり,今回の富士フイルムとの共同開発においても,がんセンターに蓄積された症例や多くの医師の意見が反映されているのと同時に,富士フイルムの開発部隊が医療現場を体験することで,より良い製品開発につながったと述べた。
類似症例検索システムの製品概要を説明したメディカルシステム事業部部長の志村一男氏は,今回の開発では「日常診療でPACSに蓄積される検査画像やレポートのデータを活用して,画像診断をサポートすること」をコンセプトに取り組んだと述べ,システムの特長として,1)肺がんの類似症例を瞬時に検索,2)充実した症例で画像診断をサポート,3)読影レポートを効率的に作成可能,4)教育・自己学習に最適,の4点を挙げた。
類似症例検索システムでは,静岡がんセンターで蓄積された約1000例の肺がん症例とレポートをデータベース化し,肺がんの画像的な特徴を数値化して登録。新たな肺がんのCT画像から,富士フイルムの高度な画像処理技術を使った類似症例検索エンジン「ImageIntelligence」によって,病変の特徴が類似した症例画像を瞬時に検索して似ている順番に表示し,医師の読影業務を支援する。
静岡がんセンターでは開院当初からSYNAPSEが稼働しているが,2005年に次世代医療用画像診断ネットワークシステムの実用化に向けて包括的な共同研究を開始し,その成果が今回の類似症例検索システムとなった。今後,最終的な製品化に向けたブラッシュアップを行い,今年秋の発売を予定している。将来的な構想としては,肺がんだけでない対象疾患の拡大とクラウド環境での提供も検討する。最初はSYNAPSEにアドオンされる機能の1つとして提供され,「価格は500〜1000万円で,SYNAPSEユーザーのうち約1400施設を対象として導入を図っていく」(玉井氏)とのことだ。
静岡がんセンターで類似症例検索システムの開発にあたった画像診断科部長の遠藤正浩氏は,「システムでは,画像の特徴から瞬時に類似する症例を検索でき,学習と経験が必要な画像診断の“知識”を容易に利用できることがメリットだ。類似症例の確認では,1枚の画像だけではなく一連のシリーズとして確認でき有用性が高い。類似症例検索システムを使うことで,経験の少ない研修医だけでなく専門医でも診断の確信度がアップしており,教育や患者説明においても活用が期待される」と評価した。 |