(株)グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンは2012年3月31日(土),ベルサール飯田橋(東京都千代田区)において,「病院経営者のための診療報酬改定直前セミナー〜厚生労働省のキーパーソンと診療報酬のプロが将来を語る〜」を開催した。2012年度の診療報酬改定が3月に告示され,4月から始まった。介護報酬との同時改定となり,2回連続のプラス改定となった今回は,2025年のあるべき医療の姿実現に向けた一歩となる重要なものと言える。そこで,このセミナーでは,今回の改定内容だけでなく,中長期的な視点から病院経営を考えることをねらって開催された。
セミナーでは,ます基調講演として厚生労働省保険局医療課長の鈴木康裕氏が「平成24年度診療報酬改定について」をテーマに登壇した。鈴木氏は講演にあたって,今回の改定に関した3つのメッセージを挙げた。1つは,今改定が2025年のあるべき医療の姿を実現するための3ステップ(ホップ・ステップ・ジャンプ)のホップに位置づけられるということである。また,2つのメッセージとして,医療機関は自院のポジションを明確にして,今後進むべき方向を決める必要があると述べた。そして,3つめとして鈴木氏は,今回はかろうじてプラス改定になったが,今後はマイナス改定が予想されるので,医療機関は前回,今回のプラス改定を生かし,将来向けて投資することが大事だというメッセージを参加者に送った。その後,鈴木氏は,わが国の医療環境について説明した上で,それを踏まえて行われた今改定の内容を解説していった。
次いで,講演1として,グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの代表取締役社長である渡辺幸子氏が「2012年度診療報酬改定〜社会保障と税の一体改革の中で〜」と題して講演した。渡辺氏は,産科・小児・救急,手術手技の評価,勤務医などの負担軽減,入院基本料,がん診療連携の充実,DPCの各テーマ別に改定内容と病院経営への影響について説明した。さらに,渡辺氏は,講演のまとめとして,目先の改定にとらわれない長期ビジョンが必要だとして,自院の強み・弱み,地域が求めている自院の役割を考えて,選択と集中をしていくことが大事だと述べた。そして,「人材(人財)への投資」など長期ビジョンのための7つのキーワードを挙げて講演を終えた。
休憩を挟んで行われた講演2では,「ポストDPC〜DPC後を見越した戦略的病院経営」をテーマに,米国グローバルヘルス財団理事長のアキよしかわ氏が講演を行った。よしかわ氏は,生き残りのためには戦略的な集患が不可欠だとして,そのための院内の意識づくりなどの方策を説明。また,手術部の改革も生き残りには重要であるとして,手術室の効率的な運用のためのノウハウについて実例を挙げて解説した。このほか,よしかわ氏は,多くの病院がDPC分析ツールを持っていながら使いこなしていないと述べ,グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンが提供する「病院ダッシュボード」について,データ分析の見本を示しながら紹介した。
最後に(株)MMオフィス代表取締役の工藤 高氏が,「2012年度診療報酬改定に対する中・長期的な対応〜重要なのは目先の対応ではない〜」と題した特別講演を行った。工藤氏は,行動経済学の観点から地域医療の状況を分析。急性期病院のミッションとして,在院日数の短縮化と後方病院との連携,病床回転率を上げることなどを挙げた。そして,急性期,回復期の施設における今改定の影響のシミュレーションを示した。また,工藤氏は,急性期病院の具体的対応について,救急医療体制の充実,医療・介護連携と院内連携の充実などの項目を示してそれぞれ説明を行った。工藤氏は,最後に病院の最大の強みを明らかにして,それを伸ばすことが大事だと強調した上で,中小規模病院は,地域連携を活用して選択と集中を図り,大規模病院は得意分野をさらに生かすことをめざすべきだと述べて,講演をまとめた。
当日は100以上の医療機関からの参加があり,今後の病院経営を左右すると言われる今回の診療報酬改定に対する関心の高さがうかがえた。 |