(株)島津製作所は2月10日(金),同社三条工場研修センター(京都市中京区)において,「第89回レントゲン祭・記念講演会」を開催した。レントゲン祭はX線を発見したレントゲン博士の偉業を讃え,X線技術の発展に向け決意を新たにするために同社が毎年開催し,今回で89回目となる。
式典では冒頭,同社取締役医用機器事業部長の鈴木 悟氏が,昨年3月11日の東日本大震災での犠牲者へのお悔やみと被災者へのお見舞いを述べ,震災に対する同社の対応と姿勢を改めて示した。そして,長年培われた同社の技術で,食品安全用の放射線検査装置を現在開発中であると述べた。そして,改めてX線装置におけるフイルムからデジタル化への変革を解説。2003年に登場した同社の直接変換方式FPD搭載の血管撮影装置は,コンピュータ技術の進化により画像処理技術が高度化し,高画質と高度な画像技術を結集した新たなアプリケーションである“トモシンセシス”“スロットスキャン”“デュアルエネルギーサブトラクション”へと進化してきたとした。さらに,X線の島津として,これらの独自アプリケーションを搭載した高付加価値装置で,市場のニーズに応える製品ラインナップをお客様へ提供していくと述べた。
記念講演では,同社の森 一博氏(医用機器事業部)が,「X線TV用アプリケーションの現状と未来〜ニーズからみたトモシンセシスの可能性について〜」のテーマで講演した。同氏は,X線撮像アプリケーションとは,幾重にも重なった人体情報を分離・抽出して画像表示する技術であるとした。そして,より正確な長さの計測“スロットスキャン”,密度のある臓器の分離“デュアルエネルギーサブトラクション”,人体をスライスした画像“トモシンセシス”をその基本原理から説明した。特に“トモシンセシス”については,胸部検診,整形領域での臨床応用について詳しく解説し,なかでも開発中として紹介した“逐次近似法”(最近,CTでも注目されている被ばく低減技術)を用いた画像再構成法では,胸部単純X線撮影と同等の線量での撮像を可能とし,金属アーチファクトが減少するとした。また,骨の定量診断として,トモシンセシスとデュアルエネルギーサブトラクションを組み合わせた“デュアルエネルギートモシンセシス”という新しいアプリケーションを,定量解析や治療支援などの臨床ニーズに応えるものとして紹介した。
次に,岡本孝英氏(帝京大学医学部附属病院中央放射線部技師長)が「整形外科領域におけるトモシンセシスの有用性〜四肢再建分野への現状の適応と将来の可能性〜」のテーマで講演した。同氏は,整形外科領域における四肢再建術の治療の基本は,正確な画像診断による仮骨評価と正確な長さや角度の計測であるとした。骨延長術(接合した部分を少しずつ引き離し,引き離した部分に仮骨を形成させ,それを最適な長さに伸ばして固定することにより,その部分に骨組織を形成させる)を紹介し,骨延長術では骨癒合過程における修復期の仮骨評価が重要であるとした。さらに,骨延長術における画像評価では,アライメントと長さの正確な計測と,仮骨の強度の評価が必要であるとし,スロットラジオグラフィーによる計測と,トモシンセシスおよびデュアルエネルギーサブトラクションでの画像評価を紹介。再現性の高いポジショニングを行うなどの注意が必要であるが,非常に有用であると述べた。 |