3D PACS研究会は2011年12月18日(日),キヤノンマーケティングジャパン(株)品川本社ホールS(東京都港区)において,「第4回 3D PACS研究会」を開催した。この3D PACS研究会は,医用画像ワークステーションやPACSなどの技術やシステム構築,運用に関する情報を共有する場として設けられた。2008年に第1回の研究会がTKP代々木ビジネスセンター1号館(東京都渋谷区)で開催され,着実に発展してきた。代表世話人は国立病院機構仙台医療センターの立石敏樹氏。今回は,熊本大学医学部附属病院の池田龍二氏が当番世話人を務めた。
開会に先立ち挨拶した池田氏は,今回のプログラムについて,東日本大震災・計画停電で問題となったシステム,ネットワークの運用や電源対策など今後のBCP計画にもつながる内容としたことや,iPadに代表されるタブレットPCを取り上げたと説明。今後の業務への参考にしてほしいと述べた。
社会全般でクローズアップされたキーワードを盛り込んだとも言えるプログラムは,モーニングセミナーのほか,テーマ1「Effective Use of Workstations」,テーマ2「Tablet PCの活用」,テーマ3「災害・計画停電におけるデータ管理」という構成で進められた。
まず,モーニングセミナーでは,立石氏が座長を務め,エーザイ(株)の村上 聡氏が,「CT—コロノグラフィについて」と題して講演した。村上氏は日本における大腸がんの状況について説明した上で,CTコロノグラフィ(CTC)の位置づけや大腸内視鏡検査との比較,検査方法などを説明。CTCの腸管拡張におけるCO2自動注入のメリットについて解説した。
続いて行われたテーマ1の「Effective Use of Workstations」では,新潟大学医歯学総合病院の金沢 勉氏を座長に,まず2題の発表があった。先に登壇したテラリコン・インコーポレイテッドの杉田純一氏は,「ワークフロー活用とクラウド化による3D画像処理の効率化」をテーマに発表した。杉田氏は,医療分野でも注目をされ始めているクラウドコンピューティングについてその概念を説明し,タブレットPCの普及や通信の高速化により,急速に広まっていると述べた。そして,医療分野における施設内のプライベートクラウドについて,同社の3D画像配信サーバ「Aquarius iNtuition Server」とクラウド技術を組み合わせたネットワークシステムにより,OSに依存せずに高度な画像処理をスピーディに行えるなど,利便性の高い環境が構築できると説明した。この杉田氏の発表後には,実際にタブレットPCを用いた3D画像処理のデモンストレーションが行われた。
次いで発表した滋賀医科大学附属病院の牛尾哲敏氏は,「ボリュームデータ時代におけるワークステーションの有効活用」をテーマに,同院におけるthin sliceデータの運用について解説した。同院は320列CTを導入し,そこから発生するthin sliceデータを専用サーバで保存している。さらに「AquariusNET Server」とPACSを連携させて,放射線科内だけでなく,院内で3D画像処理を行える環境を構築した。牛尾氏は,このようなPACSとは分けてthin sliceデータ専用サーバを設け,いつでも,どこでも,だれでも画像処理ができる環境を構築したことで,データ管理を効率化しワークフローが向上したと説明した。
この後,池田氏が座長となり,東京女子医科大学画像診断学・核医学講座の坂井修二氏による特別講演「胸部領域における高度画像処理の臨床応用」が行われた。坂井氏は,同院におけるPACSと「AquariusNET Station」などのワークステーションの構成を説明した上で,胸部領域における融合画像について,実際の症例画像を供覧。SPECT/CTなどの機能画像と解剖画像による融合画像,CTとMRIによる機能画像と解剖画像の融合画像を示し,その臨床上の意義を解説した。また,坂井氏は非線形位置合わせによる差分画像の症例を提示したほか,今後必要とされる画像処理として,肺や縦隔リンパ節のセグメンテーション,肺動静脈の分岐パターン,VATS術前のオリエンテーション画像を挙げて,それぞれの画像の説明を行った。このほか,坂井氏はCADについても解説し,同院で使用している肺結節の解析や,COPDの定量化の最新技術を紹介した。
午後に行われたテーマ2「Tablet PCの活用」では,国立がん研究センター中央病院の麻生智彦氏が座長を務めた。まず,池田氏が「ココを押さえよう 放射線部門におけるTablet PC導入のポイント」と題して発表した。池田氏は,タブレットPCを導入した場合のアプリケーションや,データの利用形態について説明したほか,各種のタブレットPCの輝度や解像度,コントラスト比などについて,表で示しながら解説をした。そして,ディスプレイ解像度の低さからRISの画面がすべて表示できないといった問題があった点を指摘し,PACSメーカーの協力を得て,タブレットPC向けのインターフェイスを改良してもらった経緯を報告。さらに池田氏は,タブレットPCを導入したことで,RISの情報共有や,検査装置横で過去画像を参照するといった業務の効率化が図れたメリットを紹介した。
続いて登壇した名古屋大学医学部保健学科の津坂昌利氏の発表テーマは,「携帯情報端末の画質特性と3D PACSへの応用」。iPhoneやiPadが医用画像表示用として十分な画質特性を持っているか検証した結果を報告した。津坂氏は,iPhone,iPadの液晶バックライトの仕組みや画素構成を説明し,その上で医用画像用のモニタのパネル方式や,コントラスト比,解像度,画素ピッチ,輝度,表示階調を解説。iPadの階調特性はガンマ2.2で,DICOM画像用のGSDFと異なることなどを指摘した。こうした検証結果を踏まえ,津坂氏はiPhoneやiPadはコントラスト応答に問題があり,階調特性がDICOM GSDFではないことから,読影用ではなく参照用として使用するべきであると述べた。
この後,国立病院機構災害医療センターの武田聡司氏が座長となり,テーマ3「災害・計画停電におけるデータ管理」が行われた。先に登壇した埼玉県済生会川口総合病院の富田博信氏は「計画停電時の画像サーバー管理と装置運用の対応報告と問題点」をテーマに発表した。同院は災害拠点病院となっており,自家発電装置のほか,コージェネレーションシステムを導入するなど,電力確保策をとっていた。しかし,東日本大震災時直後は,コージェネレーションシステムが機能せず,計画停電では各フロアの端末1台だけを稼働させるような対応をとった。そのために事前に院内システムの掲示板で周知を行ったほか,文書で通知した。こうした経験を踏まえ,富田氏は電力確保のインフラを整備し,無停電システムを導入すること,さらに運用方法を検討しておくことが重要だと述べた。
2番目に発表した立石氏は,「東日本大震災における災害拠点病院の対応〜先の見えない中で〜」をテーマに,自身の震災体験と仙台医療センターの取り組みを紹介した。東日本大震災で宮城県でのDMAT活動の拠点となった同センターは,震災直後,放射線科では一般撮影装置,ポータブル装置といったモダリティしか稼働できず,CTやMRIは3月14日に復旧した。このような状況で,画像サーバはUPSにより稼働し,その後シャットダウンして,3月14日から再稼働した。立石氏はこうした経験を報告した上で,課題として,停電に強いシステムづくりや非常用電源の確保などの項目を挙げた。さらに立石氏は,まとめとして,院内だけでなく院外のインフラ整備が重要だと述べた。
参加者にとって関心の高いキーワードがテーマとなった今回の研究会は,盛況のうちに閉会した。会場の後方には協賛企業による製品展示が行われ,発表の中で登場した製品のデモンストレーションを見学したり,熱心に説明を聞く参加者の姿が数多く見られた。なお,次回の研究会は,金沢氏が当番世話人を務める予定となっている。
会場後方で行われた協賛企業による製品展示
協賛企業:インフォコム(株),エーザイ(株),(株)エルクコーポレーション,キヤノンマーケティングジャパン(株),コドニックス・リミテッド(株),シスコシステムズ合同会社,テラリコン・インコーポレイテッド,(株)ナナオ,日本メドラッド(株),(株)メディカルクリエイト,横河医療ソリューションズ(株),リマージュ(株),(株)ワコム
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