会場風景
石黒憲彦氏
山本隆一氏
竹内倫太郎氏
吉富広三氏
(かしわ健康サポート
ネットワークコンソーシアム)
薬師神洋一氏
(ホームヘルスケア
創造コンソーシアム)
横田貴文氏
(かがわeヘルスケアコンソーシアム)
吉岡正氏
(浦添地域健康情報活用
基盤構築実証事業プロジェクト)
パネルディスカッションの様子
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アクセンチュア(株)は,経済産業省の実証事業として,2008年度から進めてきた「健康情報活用基盤構築(PHR)のための標準化及び実証事業」の報告を兼ねたシンポジウムを,2月14日(月),科学技術館サイエンスホール(東京都千代田区)で開催した。
同実証事業は,個人の健康情報を生涯を通じて収集・活用し,医療機関や民間事業者などで共有する健康情報活用基盤(PHR)の構築・運用のための技術的・制度的な要件の検討や標準化を目的に,2008年度から3年間の計画で4つのフィールドで実証事業を行ってきた。今回のシンポジウムでは,最終年度を終えた各地域からの成果報告と,「医療・健康情報を個人が管理する時代に向けて」と題して,同事業で検討事項の取りまとめや仕様の策定,運用ルールの検討などを行った委員会,ワーキンググループ(WG)の委員が登壇し,PHRを基盤としたこれからの事業展開に向けた課題と展望をディスカッションした。(2010年の中間報告の模様はこちら)
開催の挨拶で,経済産業省の石黒憲彦氏(商務情報政策局局長)は「経済産業省では,2011年11月26日に成立した補正予算の中で,医療情報化促進事業の関係経費を計上した。これは,PHRの発展型である“どこでもMY病院”,“シームレスな地域連携医療”を推進するためであり,この実証事業の3年間の成果が“どこでもMY病院”の各フィールドで実現されていくのではと考えている。今回のシンポジウムの中で,PHRの今後のあり方や課題が明らかになることを期待している」と述べた。
最初に,同事業の全体委員長でシンポジウムの座長を務める山本隆一氏(東京大学)が基調講演を行った。山本氏は,健康情報活用基盤(PHR)のひとつの目的は,どこに行っても一定の医療が受けられるような基盤となることであり,情報通信技術が発達した21世紀の今,憲法25条が定める“すべての人が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利”を提供するためのものだとした。さらに,蓄積された健康情報を活用して,民間によるサービス提供の可能性やデータの二次利用への展開も期待され,そのための基盤づくりが重要であり,今回の実証事業の成果が今後の施策などに継続されることが期待される。PHRが実現するためには,薄く広い基盤の上に,さまざまな特色を持ったサービスが付加される2階建ての構成が,ニーズの違いにも柔軟に対応できるのではないかと述べ,郵便というユニバーサルサービスが100年かかって事業化したことを挙げて,PHRも長期的なスパンで考えることが必要だと総括した。
成果報告では,まず実証事業の事務局を務めるアクセンチュア(株)の竹内倫太郎氏が,事業の概要と目的,事業を通した全体の成果と評価,今後の課題を総括し,続いて各事業者から実証フィールドにおける具体的な成果について報告された。
竹内氏は,事業の成果として,(1)健康情報を管理できる仕組みづくりとして,PHR事業者における約款案の策定,異なるフィールドでのデータのやり取りを可能にするデータ交換規格の策定を挙げた。さらに,(2)活用方法,提供価値の創造として,二次利用の対策整理とサービスモデル案の例示を行い,2つの成果を4つの実証地域の事業を通じて検証を行ったことを報告した。
実証フィールドからの報告では,まず,かしわ健康サポートネットワークコンソーシアムについて,順風路(株)の吉富広三氏が発表した。かしわでは,PHRで身体情報や食事情報の記録,医師による食事箋の登録,そのデータを活用した栄養指導などを行ってきた。モニタの参加者は31名で,情報連携によって健康意識の向上や,より高度な栄養指導などの効果があった。課題としては,健康情報を蓄積することの意義や価値への理解を高めることが,情報の蓄積とサービスの普及につながっていくと考えられることを挙げた。
ホームヘルスケア創造コンソーシアム(大阪)は,(株)ベストライフ・プロモーションの薬師神洋一氏が報告し,企業健保組合(富士通)を対象にした実証事業で,1068名が参加,PHRの利用頻度が高い参加者ほど体重の減少率が大きいなど,健康情報利用の成果が認められた。個人レベルでの普及のためには,参加のしやすさ,データ収集のしやすさ,その活用のしやすさなど求められると述べた。
かがわeヘルスケアコンソーシアムが展開する「eヘルスケアバンク」推進プロジェクトについては,(株)STNetの横田貴文氏が発表した。かがわのPHRは,“かがわ遠隔医療ネットワークK-MIX”などの外部のシステムとも連携して医療・健康情報を収集して一元管理し,それらのデータを基に企業の従業員を対象に保健指導を支援するアプリケーションなどを提供する。具体的には,健診データから指導対象となる高リスク群の抽出や,体重や血圧などの日常情報を活用した高度な指導を行うものだ。1200名の参加者に実施した成果としては,健康意識の向上や従業員の満足度の向上に繋がっており,今後の取り組みとしては地域(香川県)を超えた利用企業の増加など面的拡大を図ることで持続的な運営をめざしていくという。
総務省,厚生労働省,経済産業省の三省連携事業として展開した浦添地域健康情報活用基盤構築実証事業プロジェクトについては,日本システムサイエンス(株)の吉岡正氏が講演した。浦添地域では,自治体がPHRのサービス提供の主体となり,疾病管理サービス(糖尿病)を展開した。かかりつけ医とフィットネスクラブによる診療情報と運動プログラムの提供で疾病管理を行ったが,参加者は83名(継続して参加したのは54名)で運動量や空腹時血糖などの数値の改善がみられた。課題としては,数値の登録や情報の入力が簡単になることで,利用負荷の軽減を図り情報活用へのモチベーションを高めることだと総括した。
後半のパネルディスカッションでは,山本氏を座長として,竹上嗣郎氏(経済産業省商務情報政策局),児島純司氏(洛和会ヘルスケアシステム理事),篠田英範氏(保健医療福祉情報システム工業会標準化推進部会),中島直樹氏(九州大学病院医療情報部),八幡勝也氏(住田病院副院長)が登壇した。この中で,八幡氏は約款案の内容の検討,篠田氏はデータ交換規約の策定,児島氏はサービスモデルの検討,中島氏は二次利用に向けた対策を中心に実証事業の委員会やWGの中で担当してきた。ディスカッションでは,今回の事業の成果として紹介された約款案やデータ交換規約などについて改めて解説されたほか,会場からの質問を含めて,PHRを使ったビジネスモデルの可能性や事業としての継続性,今後の“どこでもMY病院”など政府の施策との関係などについて議論された。 |