福井大学の「統合的先進イメージングシステムによる革新的医学教育の展開」プロジェクトのリーダーを伊藤春海先生から引き継がれた,病因病態医学講座・分子病理学領域教授の内木宏延先生に,本プロジェクトについてお話しをうかがった。
●「統合的先進イメージングシステムによる革新的医学教育の展開」プロジェクトの構想と目的についてお聞かせください。
内木:福井大学が蓄積してきた画像医学の歴史,高エネルギー医学研究センターを中心とする画像医学に関する先端的研究をベースに,革新的な画像医学教育をIT技術を駆使して実施するというプロジェクトです。また,もう1つの柱として,臨床や研究はもちろん,学生,研修医,医師の生涯教育を重要な目標にしたAiセンターをつくることがあります。つまり,ITをベースにした主として学生向けの画像医学教育と,研究・教育の1つのツールとしてのAi(Autopsy imaging:死後画像診断)の実施の2つが目的になります。
Aiセンターでは,本格的に病理解剖とAiを一体化して実施していくのが大きな特徴です。Aiはいまだ学問的に未成熟で,死後画像だけ撮っても,それが何を見ているのかという学問的裏付けが十分ではありません。Ai画像を臓器のマクロ所見や病理組織所見を対応させていく,地道な学問的積み重ねが不可欠な分野と言えます。その点で,われわれのAiセンターが持つ意義は大きいと思います。ただし,今後の運用にあたっては,維持管理費用の確保が大きな課題と言えます。
●統合的先進イメージングシステムの開発と運用についてお聞かせください。
内木:福井大学の画像医学に関連するいろいろなデータを蓄積するための専用サーバを設け,さまざまな画像医学教育のためのコンテンツを蓄積していくことが第1段階です。第2段階として,コンテンツを単に蓄積するだけでなく,有機的に連結して,有効に活用しうる“ideatum”, “ideata”というソフトを開発しました。病院の臨床データやPACSなどの臨床情報とAiも含めた多様な臨床画像情報をきちんとリンクさせることができるネットワークシステムの構築です。システム開発を担当した(株)システムエッジ代表の田中雅人氏(福井大学医学部放射線医学領域非常勤講師でもある)を中心に,大変苦労して,このネットワークシステムを完成させました。
病理組織実習室は2010年10月から,5人に1台ずつのシンクライアントPCで,ideatum, ideataが使える環境にしてあります。近い将来,1人に1台ずつのPCで同時にサーバにアクセスしても使えるように,十分なサーバ容量やインフラを確保することをめざしています。
●医学部内の理解と協力を得てプロジェクトを進めるのは困難が伴ったのではないですか。
内木:われわれ福井大学が全国に誇れるのは,“人のネットワーク”だと思います。いくら巨額な予算でハードを設置しても,人が動かなければ運用することはできません。実際,2年間多くの関係者とディスカッションを重ね,ここまでに至るのは大変でした。例えばAiを実現するためには,病理学と放射線医学と臨床医学がお互いに反目せずに,協力し合って,熱意を持って取り組むことが不可欠です。今回のプロジェクトで人のネットワークを構築できたことが一番の収穫であり,それがあるからこそ,これからもやっていけると思っています。
これまでも福井大学では医学科3,4年次生を対象に,呼吸器内科の症例について,臨床と病理と放射線の医師がカンファレンス形式で一緒に解説していく授業を行ってきました。放射線科の伊藤春海先生はいつも,「形態を中心に各科がcorrelationを取りながら情報を出し合って,いかに診断につなげるかが重要だ」と言っています。福井大学にはそれが自由にできる特質があります。まさにその気風が,今回のプロジェクトを成功に導いた要因の1つだと強調したいと思います。
●これからどのように運用し,展開していくお考えでしょうか。
内木:2011年4月からは,「先進画像教育研究センター」(仮称)を組織して活動していくことを考えています。専任教員や建物などはないバーチャルな組織ですが,センター長をおき,いままでのワーキンググループ(WG)を委員会にして,規約もつくり,正式に認知された組織としていくつもりです。
Aiに関しては,現在は試行的に第一内科と第一外科だけ受けていますが,2011年4月からは全臨床科対応になりますので,年間剖検数である数十件が対象になる見込みです。また,医学生の系統解剖学実習のためのAi利用がもうすぐ始まりますが,無線LAN環境にしてiPadを用い,実習室で画像を確認しながら解剖する教育を実施する予定です。さらに,将来的には,法医解剖を始め,他の施設からの依頼を契約に基づいて受ける予定です。
(2010年12月14日取材) |