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取材報告

2009

医用画像研究会(MI)が大阪で開催


写真1 会場全景(大阪大学吹田キャンパス銀杏会館)
写真1
会場全景
(大阪大学吹田キャンパス
銀杏会館)

写真2 Tim David先生による特別講演
写真2
Tim David先生による特別講演

写真3 和田成生先生による特別講演
写真3
和田成生先生による特別講演

写真4 中沢一雄先生による特別講演
写真4
中沢一雄先生による特別講演

 医用画像研究会 MI(電子情報通信学会 情報・システムソサエティ)が2009年11月11日(水),大阪大学吹田キャンパス銀杏会館3F大会議室で開催された(写真1)。医用画像研究会は,医用画像に関連するイメージサイエンス,表示技術,画像の認識,コンピュータ支援診断など,幅広い研究テーマを対象とし,技術面を重視した学会である。

 最初のセッションのテーマは「識別,位置合わせ」であり,4つの演題が発表された。始めは,筆者らの研究グループにより,シミュレーションデータを用いた識別器の性能の検討について発表され,データの生成条件やパラメータの生成等に関する議論が行われた。次の発表は,体内術中計測に基づくレジストレーション手法を臨床評価に応用する内容であり,レジストレーションの評価法が議論された.続いて,粒子線治療における患者位置決めシステムに関する演題が発表され,0.1 mm単位の微細な誤差について議論された。最後に,大腸ひだの情報とランドマークを用いて,仰臥位と腹臥位の2姿勢で撮影されたCT画像の大腸領域を位置合わせする手法が発表された。この発表では,小さな“ひだ”の位置合わせの精度に問題があり,質疑応答で,姿勢が変わると“ひだ”が保存されるかについての議論が行われた。

 午後のセッション「特別講演:生体力学シミュレーション」は,大阪大学MEIセンターgCOEセミナーとの共催で行われた。最初の講演は,Tim David先生(Canterbury大学:写真2)による「脳血管のイメージベースドシミュレーションと計算モデル」で,力学系の計算モデル技術による計算結果をシミュレーションで仮想的に再現していただき,脳血管の血流の流れを視覚的に理解できた。

 次は,和田成生先生(大阪大学:写真3)が,「医用画像と臨床診断をつなぐ生体力学シミュレーション」というタイトルで講演された。和田先生の研究では,医師による観察・計測に,計算力学シミュレーションによる分析・評価を加えて,臨床診断における判断・処方の支援を目指すものであった。具体例として,左心室壁の動きや血流のシミュレーション実験によって,血流伝搬速度の物理的意義が示された。また,イメージベースドシミュレーションを用いて動脈硬化や動脈瘤が物理的に再現され,医用画像診断の「予測」に応用できる可能性が示された。さらに,肺呼吸器系診断支援のための計算力学シミュレーションについても紹介された。これらの力学的なシミュレーションをどうやって臨床診断にフィードバックするかが,今後の課題として挙げられた。

 次のセッション「特別講演:医療情報システム」の最初は中沢一雄先生(国立循環器病センター:写真4)が,「電子カルテのヒューマンインタフェースを考える〜もっと視覚情報を有効に使えませんか?〜」というタイトルで講演された。中沢先生はインタフェースの研究に取り組んでおられ,医師が手書きで文章や図を入力できる電子カルテや,ベクトル方式で図を描画できるインタフェースに関する研究内容等が紹介された。

 続いて,「表示,手術計画」のセッションでも,最初の演題がインタフェースに関する内容で,医用画像を人体型スクリーンに任意断面で表示する方法に関する研究であった。次の演題は,人工股関節の手術計画を自動で立案するシステムが発表され,外科医に匹敵する優れた結果が示された。

 16時20分からの「肺構造解析」のセッションの1つ目の演題は,マイクロCT画像を用いた肺胞の構造解析に関する内容であり,微小な肺胞や毛細血管を観察できる画像に対して,画像の分解能の評価や肺胞壁の自動抽出アルゴリズムが発表された。2つ目の演題は,CT画像における葉間裂の自動抽出法であり,4次元曲率を使った方法が提案された。

 その後,最後のセッションである「国際会議報告」が始まった。報告される国際会議は,9月20〜24日にロンドンで開催された「MICCAI」であった。発表者は筆者を含めて7人で,アトラスやセグメンテーションなど,発表者独自の視点でMICCAIの内容が紹介された。筆者はコンピュータ支援診断(CAD)に関連する演題を報告した。質疑応答では,MICCAIにおける日本人の採択率が少ないが,その原因の1つに英文の記述の仕方の問題があり,「研究で主張したい内容を短い英文で上手に記述しなければならない」など,日本人が採択されるために必要なことについて活発に議論され,貴重なご意見を拝聴できた。

 最後に杉本直三委員長(京都大学)が挨拶を行い,本研究会は終了した。今回の特色は,多くの特別講演が企画された点である。特別講演では,力学系のシミュレーションやインタフェースなど,必ずしも筆者の研究分野と一致するものではなかったが,それぞれの立場による臨床診断へのアプローチが紹介され,研究目的の設定などで参考になる点がいくつもあり,とても有意義であった。次回の医用画像研究会は,日本医用画像工学会「JAMIT Frontier 2010」と医用画像情報学会(MII)との共同開催「メディカルイメージング連合フォーラム」として,2010年1月28日と29日に沖縄の那覇市ぶんかテンブス館で開催される予定である。

インナビネット記者 林 達郎(岐阜大学)