取材報告

2007
医療IT推進協議会が米国NPOの協力を受け
「医療IT推進シンポジウム」を開催

国際的な意見交換が行われたシンポジウム
国際的な意見交換が行われたシンポジウム

田中 博 氏
田中 博 氏
(写真1)

ジャネット・マルチブローダ 氏
ジャネット・
マルチブローダ 氏
(写真2)

 6月25日(月),26日(火)の2日間,学術総合センター一ツ橋記念講堂(東京・千代田区)において,「医療IT推進シンポジウム」が開催された。このシンポジウムを主催したのは医療IT推進協議会(Japan Healthcare IT Initiative:JHII)。同協議会は,2006年6月に,日本医療情報学会,(財)医療情報システム開発センター(MEDIS-DC),保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)の3団体を発揮人として設立。医療のIT化を進めるために,医療現場での課題からわが国の医療政策に至るまで,広範囲に議論し,共通認識のもとに活動を展開していくことを目的としている。

 本シンポジウムも,その目的を踏まえたもの。今回は「地域医療情報連携・米国RHIOに関する国際シンポジウム」と題し,米国やイギリスといった海外におけるEHR(electronic health record)の最新動向も紹介された。また,米国における医療のIT化を推進するNPOであるeHealth推進機構(eHealth Initiative)が企画協力として参加しており,国内だけでなく海外からの視点も交えたシンポジウムとなった。

 初日には,厚生労働省大臣官房企画官の大島一博氏による基調講演が行われたほか,地域医療情報連携の長期ビジョンについて展望するという観点からの講演が設けられた。翌26日は,「健診〜医療〜介護の地域医療情報連携の実情─実施現場からの紹介・事例報告による現状把握,課題の共有─」をテーマに,講演のほか,パネルディスカッションが行われた。

 2日目は,まず名古屋大学大学院医学系研究科教授の吉田 純氏が名古屋大学を中心とした脳卒中医療におけるITを活用した地域医療連携について発表した。これに続き,「地域における中核病院と診療所・保健所の地域医療の実践」を テーマに佐久総合病院院長の夏川周介氏が,同院を中心とした健診から医療,介護までの地域連携の取り組みを紹介した。

 この後,eHealth InitiativeのCEOであるジャネット・マルチブローダ氏(写真2)が,米国政府が進める医療のIT化施策で重要な位置づけとなるRHIO(Regional Health Information Organization)について講演した。RHIOは州や地域レベルで構成される地域医療連携のための組織である。このRHIOを相互に接続することで,国全体の医療ネットワークとなるNHIN(National Health Information Network)が構築される。マルチブローダ氏は,RHIOを推進していくための財務戦略などについて報告した。次いで,地理情報システムの大手企業である米ESRI社保健・福祉ソリューションマネージャーのビル・ダベンホール氏が地域医療連携をする上で地理情報の重要性について講演した。さらに,英富士通サービスNHS担当医療責任者で,家庭医のレスターラッセル氏が「英国NHSにおける医療情報連携」をテーマに講演した。

 この後,東京大学大学院准教授の山本隆一氏を座長に,「共有する診療情報の範囲と個人情報保護」をテーマにパネルディスカッションが行われた。この中で,浜松医科大学大学院教授の木村通男氏は,医療機関と患者それぞれの視点から,診療情報を誰が管理するべきかを論じた。また,岐阜県医師会副会長の川出靖彦氏は,同医師会の地域医療連携の実例を踏まえて,診療情報の扱い方を説明した。一方,デューク大学医学部地域・家庭医療部名誉教授のウィリアム・エドワード・ハモンド氏は,諸外国のEHRの推進施策について説明した。

 続いてテーマ2として,(株)HCI代表取締役の豊田 建氏を座長に,「地域医療連携の財政課題」と題したパネルディスカッションが行われた。まず,医療法人鉄蕉会理事長の亀田俊忠氏が亀田メディカルセンターにおけるIT化への取り組みについて説明した。これに続き,慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授が中医協の「医療のIT化に係るコスト調査」の調査結果について報告した。さらに,国際医療福祉大学三田病院副院長の武藤正樹氏が,地域連携クリティカルパス について発表。医療の質を評価するために同院が取り組んでいるP4P(pay for performance)について説明した。

 シンポジウムの最後には,医療IT推進協議会の田中 博会長(東京医科歯科大学大学院教授 写真1)とマルチブローダ氏が総括を述べた。この中で田中氏は,医療IT推進に向けた国際的な共通課題を認識できたと述べ,日本版EHRを実現するためにもグランドデザインと地域医療連携パスが重要に重要であるとまとめた。


●問い合わせ先
医療IT推進協議会 事務局
保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)内
TEL 03-3506-8010 FAX 03-3506-8070
http://www.jahis.jp/it-board/index.html