新製品・企業情報

 
X線装置放射線治療  X線装置,放射線治療

北大と島津が
「次世代高精度放射線治療のための新動体追跡システム」を開発
呼吸性移動に対応し,がん組織のみをピンポイント照射できる
放射線治療の普及を実現

(2011/11/16)

●問い合わせ先
国立大学法人 北海道大学大学院医学研究科内
北海道臨床開発機構 [広報担当:和田,竹口]
TEL 011-706-7446(直通)

(株)島津製作所
広報室 [担当:谷垣,阪ノ下,小島]
TEL 075-823-1110(直通)
http://www.shimadzu.co.jp/

  国立大学法人北海道大学(以下,北大)と(株)島津製作所(以下,島津)は,北大の白土博樹教授と石川正純教授らが研究を進めてきた「次世代高精度放射線治療のための新動体追跡技術」の商品化に向けた共同開発を行い,このほど試作機が完成したことを発表した。

  開発中の装置は,がんの放射線治療で使用するX線治療装置と組み合わせるシステムで,呼吸の影響により体内で一定の位置や形状を保たない肺や肝臓のような体幹部のX線治療の場合でも,正常組織へのX線照射を避け,がん組織のみにピンポイントで照射できるもの。今後は,試作機による様々な試験を行いシステムの完成度を高めるとともに,白土教授らが関わるスーパー特区(ミニマムリスク型放射線治療機器開発)等を通じ,橋渡し研究支援機関である北海道臨床開発機構の支援のもと,2012年度の商品化を目指し,国内市場投入に続いて,海外市場への投入も目指す。

● がん(腫瘍)に対する放射線治療の現状
放射線を用いたがん治療は,外科手術,抗がん剤と並ぶがん治療の3 本柱と言われている。放射線治療は,治療に伴う痛みがほとんどなく,身体の機能と形態を損なわないため,治療と社会生活の両立が可能であり,生活の質(QOL:Quality Of Life)を維持しつつ,がんを治療できる手法として注目されている。
放射線治療には,X線治療と粒子線治療があるが,国内では現在,X線治療が90%以上を占めており,年間24万人が治療を受けている。また,海外でもがんに対するX線治療は盛んに行われている。
一方で,脳の腫瘍のように動かない部位では,腫瘍へのピンポイントの治療が可能だが,肺や肝臓のような体幹部の腫瘍は,呼吸の周期に合わせて,胸部や腹部が大きく上下して一定の位置に保たれないため(呼吸性の移動),腫瘍の位置をリアルタイムで捉えて,正確に放射線を照射する技術が切望されている。

●新動体追跡技術の概要
上記の課題を解決できる新動体追跡技術は,腫瘍近傍に2mmの金マーカーを刺入し,CT装置で予め腫瘍中心との関係を把握しておき,2方向からのX線透視装置を利用して,透視画像上の金マーカーをパターン認識技術で自動抽出し,空間上の位置を周期的に繰り返し計算する。そして,金マーカーが計画位置から数mmの範囲にある場合だけ同期照射する。これを高速で行うことで,体内で位置を変えるがんでも高精度での照射を行うことを世界で初めて可能にした。これにより,従来から行われている,呼吸性の移動によるがんの移動範囲をすべて照射する方法に比べて,照射体積を1/2〜1/4 に減らし,正常部位への照射を大幅に減らすことが可能になった。

●北大でのこれまでの研究
北大は,半世紀以上にわたり,放射線治療で最も大切である腫瘍の位置に線量を集中する技術を開発してきた。医学研究科の白土博樹教授らは,移動する腫瘍近傍に刺入した金マーカーの位置をX線透視画像で自動的に把握して,予定位置に腫瘍が来た時にのみ放射線を照射する「動体追跡技術」の開発に成功し,1999年以来,北大病院で世界的にも注目される実績を積み重ねてきた。石川正純教授らは,同装置の機能をさらに充実させる研究を2006年より進めてきた。

●開発中の新動体追跡システムの概要
呼吸性の移動等により位置を変える臓器の腫瘍位置をリアルタイムで把握し,治療用のX線ビームを照射するタイミング,止めるタイミングをX線治療装置に指示する。X線管,X線検出器,X線高電圧装置,同期制御装置,動体追跡処理装置からなるシステム。
商品化に伴い,複数マーカーへの対応を可能にし,より詳細な腫瘍位置の情報を得ることで,ピンポイント照射の精度向上を図る。また,X線管・X線検出器の保持器に改良を加え,移動する腫瘍位置の追跡がよりスムーズに行えるようにする。さらに,X線検出器部分は,I.I.(イメージインテンシファイア)の他に,フラットパネル検出器を用いるタイプもラインナップできるよう進めている。

●島津製作所の事業展開
島津は1909年に国産初となるX線装置を納入して以来,国内外で医用機器を製造販売している。
近年は,画像診断装置による診断分野のみならず,血管撮影システムでの心疾患や脳血管疾患などに対する血管内治療をはじめ,X線テレビシステムによる最新アプリケーションを用いた整形外科分野での治療支援など,治療分野にも注力している。
白土教授の本研究に対しては,これまでX線管などコンポーネント単位での提供を行ってきたが,昨年,新動体追跡システムの商品化を目指す事で合意し,がんのX線治療分野への参入に向け,開発を進めてきた。
今後は,白土教授らが関わるスーパー特区(ミニマムリスク型放射線治療機器開発)等を通じ,橋渡し研究支援機関である北海道臨床開発機構の支援のもと,2012年度の商品化を目指す。
国内市場投入に続いて,海外市場への投入も目指す。
北大と島津は,医学・工学分野における両者の優れた技術・知識・経験を組み合わせ,今回の新動体追跡システムの開発と世界的な普及を通じて,QOL に優れた最先端の放射線医療/がん治療に貢献していく。